魔法数を決定するためには、横軸を原子数、縦軸を微粒子のエネルギーとするグラフを描く必要があります(図1)。原子同士が引力相互作用する場合、原子がまとまって一つの微粒子を作るので、原子数が増大するとエネルギーは減少します。原子数 M を持つ微粒子のエネルギーが、原子数 M±1 である微粒子よりもエネルギーが極端に低いとき、この M が魔法数となります。 【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202109210364-O5-s2D87fBM】 数学的には、エネルギーは原子の座標の関数です。つまり、微粒子を構成する原子の座標を決めると、その微粒子のエネルギーがただ一つ決定されます。原子座標を変化させるとエネルギーも変化するので、一般にエネルギーは曲面を描きます。この曲面にはデコボコした山や谷がたくさんあり、最も深い谷底が安定な微粒子構造に相当します。したがって、エネルギー的に安定な魔法数の微粒子では、この谷が極めて深いということを意味します。これまで、微粒子の「谷の深さ」に関する研究は数多く行われてきましたが、「谷の形状」に注目する研究はほぼ皆無でした。微粒子の固有振動数は谷の形状によって決まるため、その詳細を理解することはナノサイエンスにおける重要な問題です。
【研究成果】 本研究では、球面上の荷電粒子系を微粒子とみなし、そのエネルギーと最大振動数を粒子数 N の関数として計算しました。その結果、エネルギーが極小となる N では、いくつかの例外を除き、最大振動数も極小となることが明らかになりました(図2左)。上述の谷の例を用いると、「深い谷の底は滑らかである」ということを示唆しています(図2右)。また例外の1つである N=122 の場合、粒子配置は高い対称性を持つが、荷電粒子の個々のエネルギーが複数に分裂するという、特殊な粒子数であることがわかりました。これは、谷は深くかつ鋭いという環境を生み出し、それゆえ最大振動数は極小値を取らないと解釈されます。 【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202109210364-O10-EPxUZb9W】
【論文情報】 雑誌名:Physical Review B誌 タイトル:Magic numbers for vibrational frequency of charged particles on a sphere (球面上荷電粒子の固有振動数における魔法数) 著者:Shota Ono DOI番号:10.1103/PhysRevB.104.094105 論文公開URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.104.094105
【用語解説】 (注1)球面上の荷電粒子系 半径1の球面上に拘束された N 個の粒子集団。粒子同士は、距離の逆数に比例する斥力で反発しあう。 N=2 の場合は、球面の北極と南極にそれぞれ粒子が分布する。N=3 の場合は、正三角形状に粒子が分布する。一般の N に対して安定な粒子配置を求める問題は、原子モデルの提案者に因んで「トムソン問題」として知られている。また、数学の18個の未解決問題を集めたスメイルの問題の1つとしても知られている。