金属の両端に温度差を与えたとき、温度差に比例して金属には起電圧が発生します。温度差があった場合に、どれだけ電力を発生することができるかの指標は、ゼーベック係数と電気伝導率の積で書き表されるパワーファクタで表されます。ゼーベック係数の値が大きく、且つ、電気伝導率を大きくすることができれば、パワーファクタが大きくなり、ある温度差から大きな電力を取り出すことができます。しかし、通常の物質では、ゼーベック係数が大きくなるとパワーファクタが小さくなるという矛盾した性質(トレードオフ)を持つ為、パワーファクタを大きくすることは困難でした。しかし、柳・河野の研究グループでは、金属の性質を示すカーボンナノチューブには、その一次元性から、このトレードオフが破られる振る舞いがあることをこれまでの研究から見出してきました(Ichinose et al., Nano Lett 19, 7370 (2019))。つまり、カーボンナノチューブでは、従来の物質と異なり、電気伝導率が大きい状態で、ゼーベック係数も大きくすることが可能であると実験的に知見を得ていました。ただし、カーボンナノチューブの束が乱雑にネットワークを形成した薄膜では、電気伝導率そのものが小さい状況でした。