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色あせた写真を見ると、写真全体で境界線の印象が弱い、つまりコントラストが低い印象を受けます。この現象は経験的には昔からよく知られておりましたが、写真の経年変化によって色が薄くなったのと同様に境界でのコントラストも下がった、などと考えられてきており、何故その様な見え方になるのかは明らかではありませんでした。
そこで、金沢工業大学 情報フロンティア学部メディア情報学科の根岸 一平准教授と高知工科大学 情報学群/総合研究所 視覚・感性統合重点研究室の篠森 敬三教授は、共同研究により、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)による計測と、被験者にコントラストを区別してもらう心理物理実験を行い、コントラストの印象を決める明暗情報を伝える輝度信号は、周りに鮮やかな色(彩度の高い色)を出すよりは、淡い色(彩度の低い色)を出す方が、より強く抑制されること、つまり脳内においては強い色信号よりも弱い色信号の方が、輝度信号を抑制する効果が高いことを、世界で初めて示しました。これによって、色の強さと輝度が作るエッジの強さ(コントラスト)のバランスを取っていると考えられます。その結果、全体が淡い色(彩度が低い色)の写真では、ぼやける(コントラストが弱い)印象をもたらします。
この結果から、色の薄いパステルカラーを多用したデザインでは、色の印象の弱さを心配しなくてよい一方で、コントラストの印象が弱くなることに配慮しなければならない、など様々な色デザイン分野への応用が期待されます。
本研究成果は、Frontiers Media S.A.が刊行するFrontiers in Neuroscienceに2021年6月28日に掲載されました。 (https://doi.org/10.3389/fnins.2021.668116)
(本研究は科学研究費助成事業「(基盤研究B)色・視覚要素から求めた意味語空間の双方向性検証による視覚―感性関係性の階層化 (18H03323)」、「(挑戦的萌芽研究)空間的色対比効果と色恒常性効果の両者を生成する統一的色覚メカニズムの解明(24650109)」、「(基盤研究B)2色覚者や高齢者における色知覚・色感性の相違検証と色補償呈示方法の開発(24300085)」の ご支援を頂きました)
【研究成果】
1 淡い色だけで構成されている画像では、シャープな印象を作るためには輝度コントラストを強めなければならないことを示しました。
2 色が薄くなった古い写真の画像修復では、色の彩度をもとに戻すだけでも、シャープな画像印象の復元に有効であることを示しました。
【今後の展開】
今回の実験では色刺激の彩度を一律に変えましたが、異なる彩度の色が同時に存在するより現実に近い場面でこの現象がどの様に働くかを調べ、実際のデザインへの応用を目指します。
【研究の詳細】
本研究では、まず脳計測実験として、被験者13名の視野の中に複数の円形色刺激を呈示し、その色刺激の彩度を4段階に変化させて、刺激観察中の脳活動の大きさをfMRIを用いて計測しました。その結果、色刺激の彩度がクロマ値 /0(無彩色)のときに脳活動は最大となり、その他の3つの条件では彩度が小さい(淡い色)ほど脳活動も小さくなるという結果が得られました。
このとき、計測された脳活動に最も影響していると考えられたのは視野の大部分を占めている無彩色の輝度パターンであったため、淡い色が呈示されているときには輝度に対する脳活動が抑制されているのではないかと考えました。確認のために背景の輝度パターンを取り払った黒背景の刺激を用いて同様の実験を行ったところ、彩度の違いによって脳活動に有意な差は見られず、淡い色が輝度に対する脳活動を抑制しているという説を裏付けています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202106296908-O1-d9o24rg9】
さらに、この脳活動の違いと知覚との対応を調べるために、先ほどとおなじ円形の色刺激を呈示した状態でのコントラスト感度を、心理物理実験によって測定しました。脳計測実験に参加した被験者6名を含む10名での結果は、やはり淡い色(彩度がクロマ値 /2)を呈示した際、他の条件よりもコントラスト感度が有意に低下しており、淡い色が輝度に対応した脳活動を抑制するという先ほどの説と一致した結果が得られました。
【論文情報】
題名:Suppression of Luminance Contrast Sensitivity by Weak Color Presentation
誌名:Frontiers in Neuroscience
著者:根岸一平 (金沢工業大学)*、篠森敬三 (高知工科大学)*
*連絡著者 (corresponding authors)