2021年5月31日

龍谷大学

「環境DNA分析※1」はコップ1杯の水から
市民と連携した愛知川※2の生物多様性調査で
サスティナブル(持続可能)な環境保全や漁場管理を推進

【本件のポイント】
・先端技術「環境DNA分析」を用いて地域貢献を進めようとする活動
・「瀬切れ※3」前にアユがすでに遡上していたことをデータで確認(後に目視でも確認)
・環境中の生物データを密にとることで地域の課題や活動の方向性の参考にするという動きは、現在のところまだ少ない。分析データ提供で迅速に市民活動と生産が高度化される

【本件の概要】
 龍谷大学 先端理工学部 環境生態工学課程の山中裕樹 准教授(魚類生態学者)は、川や湖などの水からそこに棲む生態系を調査する『環境DNA分析』の技術開発と社会実装を進めています。本年4月2日より、滋賀県や東近江市の協力のもと、愛知川漁業協同組合、市民団体の愛知川の清流を守る会と連携調査を開始しました。4月2日の調査では下流部で1地点だけ、琵琶湖から遡上してきたと思われるアユのDNAが検出されました。その後、すでに下流部で「瀬切れ」が生じていた4月15日の調査において、瀬切れ部よりも上流側の複数地点でアユのDNAが検出されました。これにより、瀬切れが生じる前にアユが中流部まで遡上していたことを確認できました。

※ 本研究は2020年8月に予備調査を行いその結果を関係者に公表しています。2021年4月には東近江市長へ研究報告を行いました。今後も地元の期待を受けて「愛知川における各種魚類の季節的な分布の変化」の調査研究(4月から1年間。2週または1カ月に1回の頻度)を実施します。


【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202105315614-O4-hY6kq9H3


【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202105315614-O1-N9Aa73p3

 愛知川を含めた琵琶湖周辺の河川には、琵琶湖からアユが遡上します。アユは滋賀県の代表的な食文化の一つであり、遊漁としても重要な資源です。そのアユの稚魚が成育する琵琶湖から河川への遡上経路が「瀬切れ」によって寸断されることが問題となっています。本研究はこのような背景のもと「瀬切れ」に注目して調査研究を行い、そのデータを関係者へ提供することで環境保全や水産業への活用を推進しています。
 本研究により、漁業者にとっては河川の水量変化がどのように水産有用種(特にアユ)の移動に影響をしているのかを可視化できるなど、アユなどの生き物でにぎわう川づくりを考える上で重要な科学的なデータを得ることが期待されます。また、どの時期にどこまでアユが遡上しているのかをつかみ、アユが釣り場にたどり着く放流方法を見つける等の具体的な活用法も見据えています。
 近年は各種魚類の漁獲量の大幅減少や生物多様性の劣化が問題視され、生き物と環境の繋がりのメカニズム解明に向けた研究が求められています。これまでの生態系調査では、投網を投げ、たも網ですくい、もんどりを仕掛ける等、非常に労力が大きいやり方と、外見から種を判別する専門性が必要でした。しかし「環境DNA分析」ならコップ1杯の水を汲むだけで、その中にある生物からこぼれ落ちたDNAの配列を分析し、データベースと照合することで特定できます。希少種の個体を傷つけることなく、また生物が獲れない見えない箇所の調査もできるという利点があります。
 本研究では主眼を置いているアユのみならず、琵琶湖と河川を行き来する魚類を網羅的に分析することで、「瀬切れ」が生き物の移動に与える影響を可視化して、地域振興に役立つ方法を関係者とともに模索していきます。


※1 環境DNA分析:水中に漂っているDNAを回収・分析して生息している種を推定するという先端技術。魚類等の大型生物を対象としてここ10年ほどで急激に技術的発展を遂げています。生物を捕獲することなく「水から」検出できる簡便さから、生物多様性の観測や水産資源の管理に革命をもたらし、一般社団法人環境DNA学会が設立されるなど社会実装に向けた動きが進んでいます。
※2 愛知川(えちがわ):滋賀県東部・湖東地域の一級河川。春季から秋季にかけて一時的に流れが途中で無くなる「瀬切れ」が発生する。愛知川では「瀬切れ」により、アユやビワマスの遡上が阻害されていると言われている。
※3 瀬切れ:河川の流量が少ない渇水時に、水が河床の砂礫内を流れてしまい、表面に水が流れていない状態(魚の移動は不可能)。

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 「環境DNA」はコップ1杯の水から