2015年9月に国連本部で行われた「国連持続可能な開発サミット」にてその成果文書で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)では貧困や気候変動、平和的社会といった世界的な問題に対し17の目標と169のターゲットを掲げ国連加盟国すべてがそれを2030年までに達成することに同意しました。日本は国連加盟国として、また先進国としてもその目標を積極的に達成しなければなりません。特に気候変動や貧困、飢餓といった問題は早急な対策が世界中で求められています。植物工場と呼ばれる完全人工環境内で植物を管理、栽培する施設は外界の環境に左右されることなく安定した栽培が可能であることから近年注目されています。しかし、それには依然として課題が残されており、完全無人管理に向けては植物の生育状況をリアルタイムで確認、制御できる技術が必要になります。植物のライブ状況を把握する指標として個体の活動により発生する生体電位を測定する手法が存在します。生体電位は個体の活動状況を反映することから、その一種である筋電などは筋活動を観察するため人間工学的分野(医学研究やリハビリテーション)で広く使用されています。生体電位は植物にも存在することが知られ、その測定技術についていくつか研究がなされており、ゲル電極や針電極を使用したものが報告されています。しかし栽培を想定した長期間の測定では電極接着部に使用されたゲルや導電性ペーストによって葉面が変色するなど衛生面、安全面で、また電極の重さによる茎への物理的な負荷などの懸念がありこれらの改善が求められていました。本研究では、本研究チームの有するナノシート技術を用いてそれらを克服し、社会課題へ貢献する技術の開発を目指してきました。
図2 基材となるPETフィルムからナノシート電極を剥離する前の3層構造(上)と、ナノシート層に用いられたPEDOT:PSSとSBSの2層構造を示した膜厚プロファイルデータ(右下)、および、より小さな植物葉に貼付した状態(左下)(Bulletin of the Chemical Society of Japan. の論文中のFigure 1a,3a,4dを改変の上転載)