同志社大学生命医科学部の小泉範子教授、奥村直毅准教授らの研究成果により世界初となる角膜内皮障害に対する再生医療の臨床研究が行われました。その研究成果が世界で最も権威ある医学雑誌の一つであるThe New England Journal of Medicineに掲載されました。本研究は、京都府立医科大学 感覚器未来医療学(木下茂教授ら)、視覚機能再生外科学(上野盛夫学内講師ら)などとの共同研究によるもので、日本医療研究開発機構助成「再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生医療の実現化ハイウェイ)」、「再生医療実用化研究事業」、内閣府「最先端・次世代研究開発支援プログラム」、 文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」を受けて実施いたしました。
角膜は眼の一番前方に位置する透明な組織で、車で言うところのフロントガラスに該当します。本来、透明でないと光を取り込むことが出来ませんが、角膜感染症や怪我など様々な理由で角膜が白く濁ってしまうと、ひどい視力障害を生じるので患者のQuality of Lifeは著しく下がってしまいます。特に、角膜を透明に保つために欠かせない角膜内皮が傷んでしまうことによる視力障害は患者の数も多く、大きな社会的問題です。角膜内皮障害に対する現在唯一の治療法は、亡くなった方(ドナー)から角膜を提供していただき、角膜を移植するというものだけです。また、角膜移植の半数以上が角膜内皮障害によるものです。1,2
平成25 年12 月から平成29 年4 月までに合計35 名の患者に臨床研究として、角膜内皮の再生医療による治療を行いました。今回のThe New England Journal of Medicineに掲載される論文では最初の11 名の患者での安全性と有効性を確認しています。2年間の経過観察を行いましたが、腫瘍の形成や、拒絶反応などの大きな合併症を認めていません。さらに、全ての患者で白く濁っていた角膜が透明になりました。視力も多くの患者で1.0前後まで回復し、従来の角膜移植と比べても非常に成績の良いものといえる結果でした。
1. Eye Bank Association of America. Eye Banking Statistical Report. Washington, DC 2016.
2. Gain P, Jullienne R, He Z, et al. Global Survey of Corneal Transplantation and Eye Banking. JAMA Ophthalmol 2016;134:167-173.
3. Okumura N, Ueno M, Koizumi N, et al. Enhancement on primate corneal endothelial cell survival in vitro by a ROCK inhibitor. Invest Ophthalmol Vis Sci 2009;50:3680-3687.
4. Okumura N, Koizumi N, Ueno M, et al. ROCK inhibitor converts corneal endothelial cells into a phenotype capable of regenerating in vivo endothelial tissue. Am J Pathol 2012;181:268-277.
5. Okumura N, Sakamoto Y, Fujii K, et al. Rho kinase inhibitor enables cell-based therapy for corneal endothelial dysfunction. Sci Rep 2016;6:26113.