金融広報中央委員会が発表した、「家計の金融行動に関する世論調査」によると、2人以上の世帯において、金融資産を保有していない世帯の割合は、次のように30.9%に達しております。
この調査結果が発表された時にマスコミは、「貯蓄ゼロ世帯」が約3割も存在すると報道していたので、個人的にはかなりの驚きを感じました。
またそれと同時に現代の日本において、本当に貯蓄ゼロ世帯が約3割も存在するのかという、疑問を感じてしまいました。
公共料金の引き落とし口座やタンス預金は、金融資産に含まれない
家計の金融行動に関する世論調査では、金融資産の定義について、「定期性預金・普通預金等の区分にかかわらず、運用の為または将来に備えて蓄えている部分する」としております。
しかし、次のような2つの資産については、除くとしております。
「商・工業や農・林・漁業等の事業のために保有している金融資産」
「土地・住宅・貴金属等の実物資産、現金、預貯金で日常的な出し入れ・引き落としに備えている部分」
そのため例えば公共料金の引き落としのために使っている、預貯金の口座の中に入っているお金は、金融資産に含まれないのです。
また日銀がマイナス金利政策を導入してから、急激に増えていると言われている「タンス預金」も、金融資産に含まれないと考えられます。
ですから貯蓄ゼロ世帯が、約3割も存在するというのは、やはり少しオーバーな感じがしますが、こういった世帯が増加傾向にあるのは、調査結果からみて間違いはないようです。
社会保障などのセーフティネットが、貯蓄ゼロ世帯の命をつなぐ
このような調査結果を見ていると、もし自分達が貯蓄ゼロ世帯になってしまったら、どうやって生きていけば良いのかという、不安を感じてしまいます。
しかし皇學館大学の准教授である遠藤司さんが書いた、「40代、35%が貯蓄ゼロ」でも悲観することはない理由という記事を読んでいたら、次のような文章が記載されておりました。
「筆者はこの結果に、別にそう悲観はしていない。人間、働いてさえいれば、少なくとも生きてはいける。働けなくなったらどうするのかと問われれば、そこは日本。様々なセーフティネットが敷かれているから、おそらく大丈夫だろう」≪引用元:「40代、35%が貯蓄ゼロ」でも悲観することはない理由≫
つまり働き続けることが大切であり、また働けなくなった場合には、社会保障などのセーフティネットを活用することが、貯蓄ゼロ世帯の命をつなぐというわけです。
この社会保障の具体的をいくつか挙げてみると、次のようなものがあると思います。
特定理由離職者と認定されれば、給付制限を受けずに済む
働けなくなった時に活用したい社会保障の代表的なものは、雇用保険の基本手当、いわゆる失業手当ですが、「自己都合退職」になると、たいてい3か月の給付制限が付きますので、すぐには受給できません。
しかし自己都合退職であっても、病気やケガ、妊娠や出産、父母の介護など、退職に正当な理由がある場合には、「特定理由離職者」と認定される可能性があり、そうなると給付制限を受けずに済むのです。
なお勤務先の倒産などの「会社都合退職」であれば、「特定受給資格者」と認定される可能性があり、こちらについても給付制限はありません。
貯蓄ゼロ世帯にとって給付制限があるか否かは、死活問題だと思いますので、自己都合退職の場合には、特定理由離職者に該当する正当な理由がないかを、しっかりと調べておきたいところです。
自己負担限度額を超えた部分が払い戻される「高額療養費制度」
健康保険や国民健康保険の加入者が、病院や診療所の窓口で支払う、医療費の自己負担の割合は、現在は2割~3割になっております。
ただ医療費の支払いには上限が設けられているため、同一月(1日から月末まで)に支払った医療費の自己負担が、一定額(自己負担限度額)を超えた場合には、その超えた部分が払い戻されるのです。
これが「高額療養費制度」であり、例えば70歳未満で、年収が約370万円~約770万円に該当する方の自己負担限度額は、
「8万100円 +(医療費 - 26万7,000円)× 1%」
になります。
つまり医療費に100万円がかかっても、
「8万100円+(100万円 - 26万7,000円)× 1% = 8万7,430円」
が自己負担限度額になるため、1月あたり約9万円の負担で済むのです。
自己負担限度額を超えた部分は求められない「限度額適用認定証」
このように高額療養費制度があるため、自己負担限度額を超えた部分は、後で払い戻されます。
しかしいったんは病院や診療所の窓口に、医療費の2割~3割を支払う必要があるので、医療費が数百万に達する場合には、貯蓄ゼロ世帯は支払いに困る可能性が出てきます。
そのため急な入院などにより、医療費の支払いが高額になりそうな場合には、保険者(例えば協会けんぽなら「全国健康保険協会」)に申請して、「限度額適用認定証」を取得しておくのです。
これを保険証と共に、病院や診療所の窓口に提示すると、1か月(1日から月末まで)の医療費の支払いが、自己負担限度額までになり、それを超える負担は求められません。
また例えば協会けんぽの場合には、「高額医療費貸付制度」という無利子の貸付制度を実施しているので、この制度から借りたお金を、払い戻しを受けるまでの、つなぎ資金にする方法も考えられます。
病気やケガが長引いた場合には、傷病手当金から障害年金に移行する
健康保険の加入者が、業務外の病気やケガにより仕事ができないため、休職した場合には、休職する前の給与の3分の2程度になる、「傷病手当金」を受給できます。
ただ傷病手当金を受給できる期間は、最大で1年6か月になるので、これを過ぎてしまうと、収入が途切れてしまいます。
そのため傷病手当金を受給できる期間が終了するまでに、仕事に復帰できる見込みがない場合には、障害年金(障害基礎年金や障害厚生年金など)の受給要件を満たしていないかを、年金事務所などに行って聞いてみるのです。
傷病手当金が受給できなくなる前に、障害年金の請求手続きを行い、傷病手当金から障害年金への移行がスムーズに行けば、収入のない期間を少なくできます。
社会保障が振り込まれるまでの生活資金は、最低でも貯蓄しておく
このような社会保障の知識と活用法を知っておけば、働けなくなった場合の収入の不安を、和らげることができます。
ただ雇用保険の基本手当の支給率は、退職する前の給与の45%~80%程度であり、健康保険の傷病手当金の支給率は、休職する前の給与の60%程度になるので、退職や休職する前より、生活は厳しくなってしまいます。
またこれらの請求手続きをしてから、実際にお金が振り込まれるまでに、ある程度の期間がかかるのです。
ですからゆとりある生活を送るため、または社会保障が振り込まれるまでの生活資金のため、ある程度の貯蓄は必要ではないかと思います。(執筆者:木村 公司)
情報提供元: マネーの達人