解雇の金銭解決制度に関しては、厚生労働省の有識者検討会で検討されており、平成29年5月には報告書をまとめる動きになりました。
制度の名前からクビきりを金で解決するとイメージもあり、クビきり横行を招くことが心配されています。
クビきりの話は実際検討会でも指摘されている話ですが、決めつけず多面的に現状を見ていくことも重要です。
日本は解雇しにくい社会と言われている
日本は諸外国に比べて解雇規制が厳しいと言われ、もう少し緩めようという動きがあるのは間違いないです。
そうした動きが「クビきりをしやすい方向をもくろんでいる」という疑念を生んでいることは考えられます。
終身雇用制は崩壊したとも言われていますが、人材育成や人事評価・昇給を行う上ではいまだに前提として根強く残っています。
解雇には、懲戒事由がある場合の「懲戒解雇」、企業の業績悪化により余儀なくされる「整理解雇」、その他の「普通解雇」があります。
いずれも従業員の能力不足や企業の業績悪化など、合理的理由の存在と社会通念上相当性がないと無効になります。
また30日前までに解雇予告をしているのであれば、企業は給与30日分相当の解雇予告手当を従業員に支払う必要があります。
現状の紛争解決手段
労基署へ駆け込んでも消極的な対応
労働問題の解決のため、労働基準監督署に駆け込もうという話はよく聞きますが、案件次第では対応が不親切とも言われます。労基署は
・ 労働基準法違反(残業代未払など)
・ 労働安全衛生法違反(労災事故防止が不十分なケースなど)
には熱心ですが、解雇は労働契約法に関するため労基署は消極的です。
もっとも解雇の金銭解決制度にあたっては労働契約法改正も予定されており、また長時間労働に対しては労基署の対応も厳しくなってきているため、将来的には対応が変わってくる可能性はあります。
裁判の他、あっせん・労働審判も
一般的に解雇無効を訴える手段としては、会社を訴える民事訴訟があります。
ただ手間と費用がかかり弁護士が関与しないと難しいため、労基署に駆け込んだ場合は、まずあっせんを薦められます。
その他、裁判所で行う簡易な手続きとして労働審判もあります。
これらは、解雇に関わらず労働紛争全般にわたる紛争解決制度となります。
あっせんは都道府県や(国の機関である)労働局にある労働関係の委員会で行いますが、企業側が応じる義務はありません。
労働審判は裁判所で行う訴訟の簡易版で、原則3回の審理で解決をはかり、こちらは企業側が応じる義務はあります。
解雇金銭解決の方向性
紛争解決制度は上記のようにすでに存在し、不当解雇の場合でもうまくいけば解決金が得られますが、どれだけの解決金がもらえるかは個々のケースで判断していました。
またあっせんは訴訟に比べると低い金額になる傾向にあります。
金額基準の明確化
勤続年数・年齢・解雇の不当性・精神的苦痛に応じて金額を決められるよう、基準を明確にするとしています。
もっともあっせんや労働審判・訴訟などでも解決金・賠償金はこれらの要素を加味して決めています。
さらに金額に上限・下限(例えば経済同友会は月給の6~18か月分を提言)を設ける方向です。これは従来にない基準・制度を設けることになります。
労働者側のみ申し立て
解雇を濫用しないように、申し立ては労働者側からのみで企業側からはできないようにすることが検討されています。
不当解雇の場合でもお金をもらってそのまま辞めていく
訴訟では無効と認められるような不当解雇でも、人間関係が破綻しているなどの理由で、どちらかというと職場復帰するよりは、お金をもらって終わりにしたい向けの制度が金銭解決制度です。
まるで不当解雇が金で認められるような形になっているのが、労働者側団体から叩かれる一因ではあります。
とはいえ抜け穴のような形で退職勧奨は(特にバブル崩壊後の景気後退期には)横行し、その際にも企業によっては退職金を積み増すような金銭的代替策がなされたのが実情です。
また訴訟などで解雇を無効にして、職場復帰する選択肢は残る方向です。
まとめ
解雇の金銭解決制度は、労働者側からの申立のみ認める方向ですので、クビきり横行させるものとは違うものと見ています。
訴訟など個別の紛争解決に委ねていた金額基準の明確化が大きいと考えられます。
ただ日本の解雇規制が厳しすぎるという意見があるため、解雇規制緩和により「クビきり横行」の方向に進むことは十分考えられます。
これは金銭解決制度を通してというより、諸外国と比較して真正面から論じられる話でしょう。
どちらかというと解雇規制緩和に効いてくるのは、働き方改革の中では「多様な正社員制度」が考えられます。
勤務地や職務が限定された正社員は配置転換させられませんので、経理職で雇ったのに簿記の基礎知識が身についていないなど、配転しないと解雇が避けられない場合は解雇されることになります。
また非正規でも正規でも「同一労働同一賃金」となることにより、終身雇用制を崩し雇用流動化が進んでいけば(これはそう簡単には進まないでしょうが)、解雇規制を緩めてもいいのではないかという方向に行くことが考えられます。(執筆者:石谷 彰彦)
情報提供元: マネーの達人