「相続税対策」(「相続対策」よりもう少し狭い概念ですが)と銘打ってアパート経営を勧め、住宅建設を進める業界の動きが、問題視されるようになってきました。
平成27年以降の相続税基礎控除引き下げから動きが活発になってきましたが、相続対策や相続税対策をするのであれば、家計の資産・負債を把握するのが先であると思うのです。
家計の貸借対照表を作成する
ある時点の預貯金・不動産やローンなどの額をまとめる
資産や負債の把握(会計・簿記の世界や、自営業者の青色申告決算書では「貸借対照表」、「バランスシート」とも呼ばれるものを作成)で一番簡単なのは、手持ち現金や預貯金の残高を確認して記録することです。
その他資産になるものとして、不動産・株式・国債などがあります。ある時点、例えば毎年12月31日時点での残高を記録することが考えられます。
時価で計算するといいのですが、不動産のように専門家でないと評価が難しいものは、固定資産税課税明細書に記載された評価額などで記載することも考えられます。
また、借金になるカードローン・住宅ローンの残高や、クレジットの未払(12月31日時点であれば、12月までに買って翌年1月以降引落しになるもの)を、残高証明書や請求書をもとに負債として記録します。
貸借対照表の例
最終的には資産と負債の差額(純資産)を計算しますが、負債 > 資産(純資産がマイナス)であれば家計の「債務超過」であり、破産などに至らないよう注意が必要な状態です。
まとめることで相続対策にも役立つ
このようにしてまとめた資産・負債は、もし自分が亡くなれば相続の対象になりますから、相続対策に役立ちます。相続対策の第一歩は、現状把握です。
これ無しに対策をやることに意味はあるのでしょうか?
また相続税の課税価格は、純資産の額に相当するもので、ここに税率をかけて税額を出します。ただし相続税法や関連通達特有の計算方法により、厳密な数字は変わります。
アパート経営が本当に相続税対策なのか?
貸借対照表から見える問題点
理屈としては1億円の不動産を購入した場合、アパート用とした場合の相続税評価額が下がります。
有名なのは借家権割合の3割減少です。
その他土地の相続税評価額が時価の8割、建物の相続税評価額(=固定資産税評価額)が建築費の5~7割程度になるという減額要因もあります。
【具体例】 評価額が6,500万円になるとすると
ここでは不動産評価額が6,500万円になると考えましょう。
アパートローンを組んで購入したとします。
6,500万円の資産と、1億円の負債が計上されるので、純資産の額が3,500万円分少なくなります。税率30%なら1,050万円の節税になります。
アパート物件購入前:全ての資産・負債を「諸資産」「諸負債」としてまとめています
アパート購入後:アパート関係のみ単独の資産・負債として表示
ただ団体信用生命保険に加入してローン契約した場合は、相続時には1億円分のロ―ンは無くなりますので、結局6,500万円分資産は増えてしまいます。
これでは相続税の課税価格がむしろ増えることになります。
相続時に団体信用生命保険によりアパートローンが免除された場合
不動産評価額は下がるが、賃料が資産を生む
不動産評価額が下がるのは、借主が住むため貸主の使用が制限されるためですが、その分入居者からは賃料を受け取ることになります。
浪費して散財すれば別ですが、賃貸経営がうまく行って貯めれば資産の現金・預金にプラスされ、単純に3,500万円の純資産減少とは言えなくなります。
「評価が下がり、相続税節税になる」のも確かですが、アパート経営を続け、また相続することで、以上のように相続税評価額プラスになる要因もあります。
また節税や散財どころか、思うように入居者が得られず、大損することも考えられます。
「経営」ですから、相続対策以上にリスクを考えて経営する覚悟が無いと、危ない橋を渡る話だと考えられます。(執筆者:石谷 彰彦)
情報提供元: マネーの達人