厚生年金保険や国民年金などの公的年金は原則的に、現役世代から徴収した保険料を、その時点の年金受給者に年金として配分する、「賦課方式」という仕組みで運営されております。
例えるなら会社員や自営業として働く子供が、高齢になった親の生活を支えるため、仕送りをしているようなイメージです。
この賦課方式には欠点があり、それは少子高齢化の進行によって、現役世代の人数が減り、年金受給者の人数が増える場合には、現役世代から徴収する保険料を値上げしないと、年金制度を維持できなくなるという点です。
またこれを繰り返していくと、少子高齢化が収まらないかぎり、現役世代から徴収する保険料は無制限に上昇していき、生活が苦しくなってしまうという点です。
保険料の上限と給付水準の下限を設定した小泉政権
そこで小泉純一郎政権の時代に法改正が行われ、現役世代から徴収する保険料に対して、一定の上限(厚生年金保険は「年収の18.30%」、国民年金は「月額1万6,900円」)を設定しました。
またその上限に達するまで、厚生年金保険は毎年9月に0.354%ずつ、国民年金は毎年4月に280円ずつ、それぞれの保険料を値上げすると決定したのです。
その上限まで保険料を値上げしても、年金財政が厳しい見通しの場合には、今度は年金額の方を減額して、年金制度が破綻しないようにしたのです。
ただ年金額の減額を繰り返していくと、今度は年金受給者の生活が苦しくなってしまうので、例えば老齢年金の給付水準は、受給を始める時点において、現役サラリーマン世帯の平均所得の50%を維持しなければならないという、給付水準の下限を設定したのです。
小泉政権による保険料の値上げは2017年でついに終了へ
このようにして2004年から始まった保険料の値上げは、厚生年金保険は2017年9月をもって、また国民年金は2017年4月をもって、ついに終了するのです。
つまり国民年金と厚生年金保険のいずれについても、保険料の値上げは今年で終了であり、これから年金財政が厳しい見通しの場合には、年金額の方を減額することになります。
こういった事情があったため、保険料の値上げに対して不満を漏らす方には、2017年までの辛抱だと伝えてきました。
しかし国民年金の保険料の値上げは、次のような理由により、今後も続いていくようで、今年で終了ではなかったのです。
産前産後の免除のため、国民年金の保険料は100円程度値上げされる
自営業やフリーランスなどの国民年金の第1号被保険者は、産前産後の期間中についても、国民年金の保険料を納付する必要があります。
しかし2016年12月14日に、「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立したため、2019年4月以降は、この期間に係る保険料を、納付する必要がなくなります。
この法律によると原則として、出産の予定日の属する月の前月(多胎妊娠の場合は3か月前)から、出産予定月の翌々月までの期間に係る保険料が、納付を免除されるようです。
なお産前産後の免除を受けた期間は、保険料を納付した場合と同様の取り扱いになるので、免除を受けた期間の分だけ、老齢基礎年金が減額されることはないのです。
そうなると免除を受けた方が納付しなかった保険料を穴埋めする、財源を確保する必要があります。
これについて現在点では、国民年金の保険料を月額100円程度値上げして、財源を確保することになっております。
育児休業等の期間も保険料の納付が免除される厚生年金保険
会社員などが加入する厚生年金保険では、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)と、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間は、保険料の納付が免除されます。
また厚生年金保険はこれだけではなく、満3歳未満の子を養育するための、育児休業等の期間(育児休業及び育児休業に準じる休業の期間)についても、保険料の納付が免除されます。
つまり法改正が実施されても、国民年金は産前産後の期間中しか、保険料の納付が免除されないにもかかわらず、厚生年金保険では産前産後休業の期間に加えて、育児休業等の期間についても、保険料の納付が免除になるのです。
こういった加入する年金制度の違いによる格差は、いずれ問題になると予想しております。
そうなると国民年金にも、育児休業等の期間に係る保険料の免除制度が創設され、この財源を確保するために、また保険料が値上げされるかもしれません。
こども保険の創設により、国民年金の保険料は月830円程度値上げへ
2017年3月29日に、自民党の小泉進次郎衆議院議員らが作る「2020年以降の経済財政構想小委員会」が、保育や幼児教育を実質的に無償にするための、「こども保険」の創設を提言して、大きな話題になりました。
もしこども保険が創設された場合には、厚生年金保険の保険料は月0.1%、国民年金の保険料は月160円くらい値上げされ、その値上げ分により未就学児への児童手当を、月5,000円増額するそうです。
この後は段階的に、厚生年金保険の保険料は月0.5%、国民年金の保険料は月830円くらいまで値上げされ、その値上げ分により未就学児への児童手当を、月2万5,000円増額するそうです。
現在の保育園や幼稚園の平均保育料は、月2万5,000円~3万円くらいになるため、今の児童手当にこの増額分を加えると、保育や幼児教育の実質的な無償化を実現できるとしております。
ただ月に830円も国民年金の保険料が値上げされたら、保険料の滞納者は現在よりも増えると考えられ、そうなると保育や幼児教育の実質的な無償化は、絵に描いた餅になってしまいます。
保険料の値上げ対策の要は、保険料の納付の免除を受けること
このように国民年金という制度を維持するための保険料の値上げは、2017年で終了しますが、子育て環境を整備するための値上げは、今後も続いていくようです。
しかもいずれの値上げにも、小泉親子が係わっており、何か不思議な縁のようなものを感じます。
子育て環境を整備するため、今後も続いていくと考えられる保険料の値上げ対策の要は、保険料の納付の免除(全額、4分の3、半額、4分の1、納付猶予)を、きちんと受けることであり、安易に滞納を続けていると、後で自分が損をすると思うのです。(執筆者:木村 公司)
情報提供元: マネーの達人