2017年春からの値上げ






4月の初め頃に新聞やテレビなどを見ると、新年度から変わることの特集をやっております。



それらによると2017年度からは、



・ オリーブオイル

・ サラダ油

・ のり

・ 生乳などの食品

・ タイヤ

・ 国民年金の保険料

・ 燃油サーチャージなど



値上げされるようです。



また生命保険(特に終身保険、学資保険、個人年金保険、養老保険などの貯蓄型)の保険料も、2017年度から値上げされることになり、それは次のような理由があるからです。





生命保険の保険料を決定する3つの予定率


生命保険会社が生命保険の加入者から徴収する保険料は、次のような3つの予定率を元に算出しております。



(1) 予定死亡率




将来において性別や年齢別に、毎年およそ何人くらいの方が死亡するかは、「標準生命表」によって予測ができ、このようにして予測した死亡率を「予定死亡率」と言います



(2) 予定事業率




生命保険会社が事業を行っていくうえで必要となる経費(人件費、広告宣伝費、事業所の家賃など)が、どれくらいになるかを予測したものを「予定事業率」と言います。



(3) 予定利率




生命保険会社は生命保険の加入者から徴収した保険料の一部を、国債や株式などの市場で運用して、運用益を上げており、こういった運用を通じて得られる見込みの利率を「予定利率」と言います





予定利率が引き下げされると、保険料は値上げされる


この3つの予定率のうち、(1)の予定死亡率と(2)の予定事業率は、数値が引き上げされると、保険料は値上げされ、逆に数値が引き下げされると、保険料は値下げされます



その理由として死亡する方が増えると、生命保険会社が支払う必要のある死亡保険金が増えるので、その分だけ保険料を値上げする必要があるからです。



また事業で必要となる経費が増えると、その増えた経費の分だけ、保険料を値上げする必要があるからです。



その一方で(3)の予定利率は、数値が引き上げされると、保険料は値下げされ、逆に数値が引き下げされると、保険料は値上げされます



その理由として国債や株式などの市場で、運用益を上げることができなくなった場合には、生命保険の加入者から徴収する保険料を値上げして、少なくなった運用益の穴埋めをする必要があるからです









標準利率は過去最低の水準となる0.25%に引き下げへ


2017年度から生命保険の保険料が値上げされるのは、2016年1月から日銀が導入したマイナス金利政策の影響により、特に日本国債で運用益を上げられなくなってしまい、予定利率を引き下げしたからです



なお生命保険会社が予定利率を決める際は、金融庁が発表している「標準利率」を参考にしています。



保険料が月払いの生命保険の標準利率は2017年度から、過去最低の水準となる、0.25%(以前は1%)に引き下げられました



生命保険会社は標準利率を参考にしているだけなので、「予定利率=標準利率」ではないのですが、だいたいこのくらいを目安にして、予定利率の引き下げが実施されることになります。





掛け捨て型より貯蓄型の方が、予定利率の引き下げの影響を受けやすい


生命保険の保険料の内訳を見てみると、生命保険会社の経費として使われる「付加保険料」と、保険金などの財源に使われる「純保険料」に分けられます。



またこのうちの純保険料は、死亡保険金の財源に使われる「危険保険料」と、解約時に支払われる解約返戻金や、満期時に支払われる満期保険金の財源に使われる、「貯蓄保険料」に分けられます



一般的に定期保険などの掛け捨て型の方が、終身保険などの貯蓄型より、保険料は安くなっております。



この理由として掛け捨て型の保険料は、



「付加保険料 + 危険保険料」



で構成されているのに対して、貯蓄型の保険料は



「付加保険料 + 危険保険料 + 貯蓄保険料」



で、構成されている場合が多いからです。



また予定利率とは、純保険料(危険保険料、貯蓄保険料)の運用によって得られる見込みの利率であり、貯蓄型は危険保険料に加えて、貯蓄保険料がある分だけ、予定利率の引き下げによる影響を受けやすくなります





新たな予定利率が適用されるのは、2017年度以降に加入した方


一般的な生命保険であれば、加入する時に決定された予定利率が、生涯に渡って適用されます。



そのため2017年度から予定利率が引き下げになったとしても、それより前に加入しておけば、予定利率の引き下げによる影響を、受けずに済むのです。



つまり引き下げられた、新たな予定利率が適用されるのは、2017年度以降に加入した方からになります





「逆ザヤ」の発生が、生命保険会社の経営を圧迫していく


今回のように予定利率が引き下げられた場合、予定利率が生涯に渡って変わらないことは、生命保険の加入者にプラスに作用します。



ただ生命保険会社は立場が逆で、予定利率が引き下げられると、マイナスに作用します。



その理由として現在のように、運用益を上げられない状態になり、予定利率を引き下げたとしても、予定利率を引き下げする前に加入した方に対しては、その時に決定された予定利率を、生涯に渡って保障する必要があるからです。



このように現在の予定利率より、加入する時に決定された予定利率の方が高い状態を、一般的に「逆ザヤ」と呼んでおり、こういった状態が続いていくと、生命保険会社の経営を圧迫します





逆ザヤを解消するため、再発する可能性がある「転換問題」






現在加入している生命保険の解約返戻金などを、新たに加入する生命保険の保険料の一部に充当して、既契約から新規契約に乗り換える、「転換」という制度があり、よく生命保険の下取りと呼ばれております。



生命保険会社はバブル崩壊後に発生した、逆ザヤを解消するため、つまり予定利率の高い生命保険から、予定利率の低い生命保険に切り替えさせるため、この転換を利用したのではないかと、批判された過去があります。



この時に金融庁は、書面による重要事項の説明や、確認印の押印などを義務化して、このような転換問題の収束を図りました。



こういった影響により、転換問題は沈静化しておりますが、予定利率の引き下げによる逆ザヤが経営を圧迫していくと、再発する可能性があると考えております。(執筆者:木村 公司)



情報提供元: マネーの達人
記事名:「 「生命保険料の値上げ」は生命保険会社を圧迫し、「転換問題」の再発を予感させる。