新入社員の皆さん、この度、晴れて新社会人になられたことを心よりお喜び申し上げます。
ここ数年間は、アベノミクス効果のおかげ? かどうかはさておき、堅調な企業業績と人手不足を背景に就職事情は改善しており、学生さん側にとっては「超売り手市場」と言われる就職戦線だったのかもしれません。
でも、皆さんが希望する企業に就職するためには厳しい競争があったのは現実でしょうから、皆さん一人ひとりが志望する会社に選ばれてご入社されたのでしたら、それは大変素晴らしいことです。
大いに喜び、そして胸を張って新社会人生活をスタートさせて下さい。
晴れやかな気持ちのなかで恐縮ですが…
さて、社会人になったばかりの皆さんに厳しいことを伝えるのは心苦しいですが、会社というものは、皆さんの人生を将来にわたってずっと支えられるほど盤石なものではありません。
日本航空やシャープ、東芝といった日本を代表する大企業といえども、大きな経営判断上の失敗や不祥事を2つか3つ重ねてしまうと破たん状態に陥ってしまうことは、皆さんもよく知っていることでしょう。
つまり、大企業といえども終身雇用はもはや過去のものであり、生涯にわたって安定した収入が約束される職場はないということです。
安心できる道は自身で確保する
皆さんが、将来にわたって頼りにすべきは、自分自身の人材としての価値であり、会社ではありません。
自身の人材価値(どこでも通用するビジネススキル)を早く作り上げ、それを維持していくことだけが皆さんにとって安心できる道なのです。
今は、入社されたばかりの会社で連日行われる新入社員研修のカリキュラムをこなしたり、配属された職場で仕事を覚えたりすることで精いっぱいでしょう。
新しい環境に慣れるだけでも大変でしょうが、これから少なくとも30年以上は続くだろうビジネス人生をマラソンにたとえれば、皆さんは入社というスタートラインにたったに過ぎません。
とは言え…入社早々過度に張り切る必要はありません
程よく肩の力を抜いて社会人生活をスタートさせましょう。そして、健康に気を配りストレスを溜め過ぎないように働き、着実に人材価値を高めて頂ければと思います。
さて、本コラムでは、新社会人となった皆さんに向けて、人材価値の向上とともに大切な将来に向けた資産形成についてアドバイスさせて頂きたいと思います。
確定拠出年金・DC制度
もし、皆さんが入社された会社が東証一部市場などに上場している大企業であれば、退職金制度の一環としてほぼ例外なく確定拠出年金・DC制度を導入(もしくは導入検討をしている)されていることでしょう。
ちなみに、厚生労働省年金局の発表では、2017年1月末時点でDCを導入・実施している事業主数は2万5,000社あまりです。
確定拠出年金は、老後に向けた資産形成の重要な手段であり、投資経験のない人はもとより、新社会人の皆さんにとっても資金運用を始めるきっかけになると思います。
確定拠出年金・DC制度をおおざっぱに説明
「老後の備えを自助努力で作るための制度」で、会社があらかじめ用意したいくつかの金融商品ラインアップの中から自分で投資対象を選んで、会社が負担する毎月の掛け金(事業主掛金という)を運用する仕組みです。
原則として60歳まで資金を引き出せないといった不自由はありますが、掛け金は非課税(※)になるし、運用期間中の運用益にも課税されないという税制上のメリットがあります。
(※)正確に言えば、事業主掛金は退職金の原資の一部ですが、給与ではないので所得税・住民税が課されません。
DC制度を導入している会社であれば、おそらく新入社員研修プログラムの中にDCに関する説明会がメニューとして用意されていると思います。
退職金制度の一環としてのDC制度概要や、制度設計において会社側と労働組合側が協議して作り上げた規約の内容などについて、あまりにも複雑で理解できないといった声が新社会人の皆さんからは聞こえてきそうです。
要は、
「自身の老後の備えを自助努力で行うために、毎月の掛金を上手に運用する手段」
とシンプルに理解すればOKです。
DCで用意されている金融商品
定期預金や保険といった「元本確保型商品」と、リスク商品である「投資信託」の2つに分けられる。
「元本確保型商品」は、もはや厳密な意味での元本保証はない
定期預金や保険についての説明は省きますが、どちらもほぼゼロ金利状態の利子収入しか得られないため、長期で老後資金を準備していくのに毎月の掛け金を定期預金や保険に入れておいてそのまま放置するのは賢明とは言えません。
「とりあえず定期預金に入れておけば、少なくとも元本は減ることはないので安心出来るし、いずれ日本でも預金金利がつく時代が来るだろう」
と思っているのなら、それはあまりにも甘い考えです。
今後、10年~20年の間に世界経済でどんなことが起きるかは予想がつきません。
予期せぬ大幅な円安になったり、エネルギーや資源価格の高騰で様々な物価が上昇したりすれば、定期預金で保有するお金の価値は実質的に目減りするでしょう。
たとえ多少の金利がついたとしても物価上昇率を下回る可能性が高いです。
また、少子高齢化が進む中、社会保障財源のことを考えれば、いずれ厚生年金を含めた公的年金の金額水準が減らされることや支給開始年齢が繰り下げられる事態になることは避けられないでしょう。
老後資金を真剣に考えるなら「投資信託」
そうであるなら、自分自身の裁量で運用できる確定拠出年金で少しでも将来の老後資金を増やしていくことを真剣に考えるべきです。
つまり、リスク商品である投資信託を積極的に活用してDC資産を増やしていくことが必要になります。
では、投資信託のうち、どんな商品を選んだらいいでしょうか。
投信選びのポイントは4つ
1. DCは長期運用が前提なので、成長を期待して株式に投資するファンドを中心に選ぶ
2. アクティブ・ファンドではなく、インデックス・ファンドを選ぶ
3. 信託報酬という運用費用が安いファンドを選ぶ
4. バランス型ファンドを選ぶ際は、資産配分が固定されたシンプルなタイプがよい
1. DCは長期運用が前提なので、成長を期待して株式に投資するファンドを中心に選ぶ
皆さんの様に20歳代前半の若い人であれば、株式に投資する割合を高めにして、リスクを積極的にとって長期で成長を期待する運用がいいでしょう。
仮に、株式中心に投資する投資信託を毎月の掛金で購入し続けた結果、運用が上手く行かずに損失が出たとしても、その損失を取り戻すだけの運用期間が、皆さんには十分にあります(DCの運用は60歳まで続きます)から大丈夫です。
2. アクティブ・ファンドではなく、インデックス・ファンドを選ぶ
専門家である運用会社が、投資対象や銘柄を細かく選んで市場の平均以上の運用成果を目指す「アクティブ・ファンド」はパフォーマンスに対してコストが割高になるので選択肢から外し、市場平均に並みの運用を目指す「インデックス・ファンド」を選びましょう。
その方が、運用内容が分かり易くてコストもはるかに安いからです。
4. バランス型ファンドを選ぶ際は、資産配分が固定されたシンプルなタイプがよい
1つのファンドで複数の資産に分散投資するバランス型ファンドはお手軽なので選択してもいいでしょうが、資産配分比率が固定されたタイプの方が運用内容はシンプルで信託報酬も比較的低いのでお勧めです。
運用商品を選ぶ際の具体的な手続き
毎月の掛け金を使ってどの商品にどのくらいの割合で投資をしていくかをパーセントで設定する「配分指定書」を記入して勤務先へ提出することになると思います。
配分指定書では
日本株と海外株(日本以外の先進国)に投資するファンドを2つ選んで、それぞれの配分比率を30%、70%くらいに設定されればOKだと筆者は考えています。
日本人である以上、日本株の比率をもっと高めたいという意見もあるかもしれませんが、自国へのバイアスを高め過ぎないことが国際分散投資を考える際は大切ですので、日本株へ30%も配分すれば十分でしょう。
新興国に投資する商品(株式および債券)は選ばない
皆さんが投資知識を高めて経験値が高まるまでは、カントリーリスクがあり通貨変動も大きい新興国に投資する商品(株式および債券)は選ばない方が賢明です。
もし商品ラインアップの中に不動産投資信託やコモディティに投資するファンドが用意されていてもそれらは避けた方が無難です。
確定拠出年金・DCは「資金運用」のスタートです
確定拠出年金・DCは、皆さんの老後に向けた資産形成の重要な手段でもありますし、資金運用を始めるきっかけにもなります。
よって、会社からDC制度に関する説明や商品ラインアップの紹介を受ける機会があった際は、面倒くさがらずにしっかりと説明を聞いてください。
そして、先に筆者が助言した商品選びのコツを参考にして頂き、大切な毎月の掛け金を有意義に投資されて、今の時点から老後資金の準備を意識した資産運用を始めましょう。
DCを通じて、少しずつでも投資経験を積んでいけば、投資や経済に対する関心も高まっていきますし、DC資産の運用状況を定期的にチェックしていく習慣もついていきます。
まさに、確定拠出年金・DCは新入社員の皆さんにとって「資産運用 はじめの一歩」となるでしょう。
DCとは直接関係はありませんが…
もし入社された会社で「社員持ち株会」なる制度が用意されていて、毎月の給与天引きで定額の自社株の買い付けができる仕組みがあったとしても、筆者はその制度を利用することをお勧めしません。
社員持ち株会が会社の業績向上にともない、資金運用として結果的に成功するはどうか別として、皆さんの人生をトータルで見た場合、
自分自身が勤務する会社の株式へ社員持ち株会を通じて投資すること
はリスク分散の観点から大きな問題があるからです。
・ 東日本大震災の際に原発事故を引き起こした「東京電力」
・ 不正会計・巨額損失問題を抱えて上場維持が危うくなっている「東芝」
ここにいる社員の多くが、長きにわたって社員持ち株会を通じて自社株を保有していて老後生活資金の備えとしていたと新聞やニュースで報道されています。
事件・問題発生後に、東京電力と東芝の株価の大幅下落が自社株を保有している社員の老後資金設計にどれほどの影響を与えたかは容易に想像ができることでしょう。
筆者は昨年4月にも「新社会人になった皆さまへ FPの私からアドバイスしたいお金のこと」というタイトルで2回に分けてコラムを寄稿しています。
新社会人の皆さんのために、お金との上手な付き合い方や生命保険加入について詳しく紹介していますので、是非合わせて読んでみて下さい。(執筆者:完山 芳男)
情報提供元: マネーの達人