トランプ大統領は先月9日、「2、3週間以内に税に関する驚くべき発表をする」と示しました。その時期が近づいてきています。
約30年ぶりとなる抜本的な税制改革、その驚くべき内容とはどのようなものか注目が集まります。
トランプ氏は選挙期間中から、法人税の減税を公約に掲げてきました。これまで、海外移転企業からの輸入に「国境税」を課す考えを示しています。
これに対して、議会共和党は『国境税調整』を提案しています。
ここにきて大統領側近は、トランプ氏が『国境税調整』に乗り気になっていると述べ、近く発表される法人税制改革に盛り込まれる可能性が高いと考えられます。
国境税調整とは
その国境税調整についてみていきましょう。
昨年の6月に下院の共和党が税制改革案を提出した際に、盛り込まれていたのが国境税調整の概念です。
その内容とは、輸入品に20%の国境税調整を課し、米国内の企業が法人税を払う際は、
「米国内の売上高」-「米国内で発生した費用」=国内利益
で計算するものです。
そして、国内利益に対して20%の法人税を課すというものです。
言うなれば、輸入品には20%の関税がかかり、米国企業が輸出で得た利益には無税ということになります。
現在、米国企業は連邦政府の法人税35%と州政府が法人税に課す税金を合わせ、世界でも高い方に入る39%の税金を負担しています。これを20%にしようというものです。
どんな影響があるか、具体的に計算してみましょう
計算を簡単にするために、現在の法人税は40%として比較をしてみましょう。
【現状】:売上げは全て国内
売上 10,000
-原価(国内) 3,000
-原価(国外) 3,000
税引前利益 4,000
-法人税 1,600
税引後利益 2,400
【国境税調整】:売上は全て国内
売上 10,000
-原価(国内) 3,000
-原価(国外) 3,600 ※国外からの輸入は20%の関税
税引前利益 3,400
-法人税 1,400 (10,000-3,000)×20%
税引後利益 2,000
【国境税調整】:売上は全て国内 仕入れは全て国外から輸入
売上 10,000
-原価(国外) 7,200 ※6,000に20%の関税
税引前利益 2,800
-法人税 2,000 10,000×20%
税引後利益 800
このように、売上げは全て国内、仕入れは全て国外だとすると、税引き後の利益が大きく減ることになります(この例では2,400が800に)。
企業によっては、利益よりも売上高に近い金額に課税する形になるため、法人税率の引き下げによる恩恵をコストが上回る場合があります。
海外から衣料品や電子製品、食料品などを輸入して販売する小売業者が、声高に反対している理由が解かります。
国外から製品や商品を安く輸入し、それを売る小売業にとってみると、輸入品のコストがいきなり一律20%上昇することを意味します。
言い換えれば、アメリカの一般消費者に対して、実質的に20%の消費税を課すのと同じです。
一時的に消費が減退する懸念も
部品を輸入に頼る自動車産業も悪影響を受ける可能性があります。 石油の輸入にも税が適用されるため、ガソリン価格も上がるかもしれません。
こうなると、一時的に消費が減退する懸念もあり、米国内のインフレ要因と考えられています。
長い目でみれば雇用が増え、賃金が上昇しますので、米国消費者の購買力は保たれるかもしれませんが、そこまでの道のりは平坦ではなさそうです。
為替への影響は?
一方、国境税調整による為替の影響は、ドル高要因と考えられます。
ドル高はデフレ要因ですから、先に書いた輸入価格の上昇によるインフレと、ある程度相殺すると予想されます。
ドル高になれば、米国債などに投資してきた投資家は、その恩恵を享受することになります。
その反面、ドル建て社債を発行して、資金調達している新興国の企業などは打撃を受けることになります。
アメリカ・ファーストの税制改革がどのような内容なのか。 国内外にどのような影響を与えるのか、あと数日は目が離せません。(執筆者:渡辺 紀夫)
情報提供元: マネーの達人