こんにちは。国際フィナンシャルコンサルタントの荒川 雄一です。
さて今回は、なぜ円が「安全通貨」として買われるかについて、考えてみたいと思います。
「円」は本当に「安全通貨」なのか
前回、国際通貨の現状についてふれましたが、米ドルの確固たる基軸通貨の地位は、当面崩れそうもありません。
また、人民元も国際通貨の第一歩を踏み出すなど、今後の影響力が増すことは間違いないところです。
一方、日本の通貨「円」は、高度成長期を頂点として、国際通貨としての地位は保ってはいるものの、決済通貨、外貨準備通貨、SDRといった点においては、その比率は低下傾向にあると言えます。
そのような中にあって、「円」が世界中で注目され、活躍する場面があります。
それが、「リスクオフ」時において、「安全通貨」として買われることです。
ここでは、なぜ円が、「安全通貨」として買われるかについて、考えてみたいと思います。
日本はGDPの2倍以上の財政赤字を抱えているんだけど…
昔、学校で経済学を勉強していた時には、「金利の高い通貨が買われる」と教わってきました。
通貨を保有することにより、金利収入を得ることができるからです。
また、潜在的な経済成長力があり、物価も適正な水準で上昇しているような国力のある通貨が、買われると学んできました。
ところが日本は、潜在成長率はわずか1%未満、物価上昇率を無理やり引き上げて、「デフレ経済」からの脱却を目指している国です。
短期的には、低金利どころかマイナス金利状態、中長期的にも、人口の自然減少により、経済は低成長を続け、そして何といってもGDPの2倍以上の財政赤字を抱えている国です。
通常の「安全」といったイメージとは、全くかけ離れている状態です。
このことから言えることは、現代の経済の動きは、昔の経済理論と大きく変化してきており、国力=通貨の強さ(為替レート)ではなくなってきたということです。
では、なぜ、「リスクオフ」の時に、「円」は買われるのでしょうか?
それは、上述した日本の経済状態に、要因があると考えられます。
要因1 デフレ経済
その一つが、「デフレ経済」です。
デフレとは、物の価格が上がらず、低位安定していることです。
従って、市場や経済が不安定になったときには、「購買力が下がりにくい通貨へお金が向かう」と考えることができます。
物価と為替相場の関係においては、デフレ経済は、「通貨の価値が上がる」からです。
要因2 超低金利
もう一つの要因として、長引く低金利が挙げられます。
超低金利の通貨は、売られるのが一般的ですが、「運用」という側面からは、非常に安いコストで資金調達できるメリットがあります。
その代表的な取引が、2005年当時に活発に行われた円で資金調達をして、外貨で運用をするという円キャリートレードです。
「リスクオン」の時には、なるべく安いコストで資金調達を行いたいと考えるため、「円」を売って金利の高い通貨を買うことにより、「円安」が進行しやすくなります。
一方、マーケットが先行き不安を感じ、「リスクオフ」に転じると、今まで持っていた金利の高い通貨を売って、「円」を買い戻すために、一気に「円高」が進む要因となるわけです。
最後に
このように、「物価と為替」、「金利と為替」の関係で考えると、中長期的には、様々なリスクを内在している「円」も、「安全通貨」という名のもとに、買われている理由の一端が理解できるのではないかと思います。
とはいえ、現在の「円の特性」が、未来永劫続くわけではありません。
物価が上昇に転じ、金利が引き上げられれば状況は一変します。
さらに、日銀が目標とする2%の物価上昇率を、はるかに超えるインフレとなれば、一気に日本の潜在的なリスクが表面化し、「円」が大きく売られる場面も想定しておく必要があります。
いずれにしても、「円=安全通貨」という表現は、今だけの現象とみておくべきと言えるでしょう。(執筆者:荒川 雄一)
情報提供元: マネーの達人