賃貸の部屋から火を出したら。隣への賠償と大家への賠償は法律の扱いが違う
家財保険の更新の案内には、自分の家財の補償と並んで、大家や隣の部屋への賠償という言葉が載っていることがあります。賃貸の部屋から火を出したとき、隣の部屋に負う責任と大家に負う責任は、別々の決まりで扱われます。隣への賠償を軽くする法律はあっても、大家への責任まで軽くなるわけではありません。
家財保険の更新の案内を手にした30代の会社員の女性の疑問
「もし火を出したら、隣の部屋の分まで払うことになるの?」。賃貸マンションに住む30代の会社員の女性は、届いた更新の案内を読みながら首をかしげました。台所でうっかり火を出したら、隣の部屋と大家のそれぞれに何を負うのか、案内の言葉だけでは見当がつきません。
確かめたいのは、隣の部屋への責任、大家への責任、保険で見ておくところの3つです。
隣の部屋への賠償は、重大な過失があったかどうかで分かれる
他人に損害を与えたときの基本は、民法第709条です。故意または過失で他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は、生じた損害を賠償する責任を負います。
この原則を失火に限って外しているのが、失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)です。条文は、第709条の規定は失火の場合には適用しないとしたうえで、失火者に重大な過失があったときはこの限りでないと定めています。失火で隣の部屋や隣家に不法行為の賠償責任を負うのは、火元に重大な過失があったときです。
では、失火で問われる重大な過失とはどの程度か。最高裁判所の判決(昭和32年7月9日)は、わずかの注意さえすれば結果をたやすく予見できたのに漫然と見すごした、ほとんど故意に近い著しい注意の欠如を指すとしています。
大家への責任は、借りた部屋を返す約束から生まれる
大家との間には賃貸借の契約があり、民法第621条が借りた側の義務を定めています。借りた物を受け取った後に生じた損傷は、賃貸借が終わったときに原状に戻さなければなりません。通常の使用による損耗や経年変化は除かれ、借りた側の責めに帰することができない事由による損傷なら、この義務は負いません。
注意したいのが、最高裁判所の判決(昭和30年3月25日)です。借りていた工場が火災で失われた事案で、債務不履行による損害賠償には失火ノ責任ニ関スル法律の適用はないとしました。国土交通省のウェブサイトで公開されている相談対応事例集も、居住者の過失による場合は、貸主には賃貸借契約にもとづき、ほかの借主には不法行為(民法709条)にもとづき損害賠償責任を負うと解説しています。
保険証券と契約書で、どこまで備えがあるかを確かめる
隣への責任と大家への責任は、根拠になる決まりが違います。同じ事例集は、住宅総合保険には損害賠償特約が付いていることも多いとして、保険契約の内容の確認を勧めています。まずは保険証券で、自分の家財、大家への賠償、隣への賠償のどれが補償されているかを確かめ、賃貸借契約書の原状回復の取り決めにも目を通しておきましょう。
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