「母が全部相続すれば税金はゼロ」。その分け方が、次の相続で子に重くのしかかる
父を見送り、秋の彼岸で家族がそろうと、遺産の分け方の話が持ち上がります。よく耳にするのが「母が全部相続すれば相続税はかからない」という話です。確かに一次相続の税は軽くなります。けれど母を見送る二次相続では、その分け方のつけを子が引き受けることになります。
父の相続で「母に全部」と決めかけた40代の会社員
「母が全部相続すれば配偶者の特例で相続税はかからないと聞きました。それなら全部母の名義にしようかと。」父を見送った40代の会社員は、母と妹と分け方を話していました。母は自宅と自分名義の預金を持ち、年金で暮らしているので、全部を受け取れば安心に見えました。
ところが税理士に相談すると、母の相続まで見て決めたほうがよいと言われました。父の相続(一次相続)で軽くなった税が、母の相続(二次相続)で子に回ってくるからです。
一次相続の税が軽くなる仕組みと条件
配偶者の税額軽減は、相続税法第十九条の二が定める制度です。配偶者が遺産分割や遺贈で実際に取得した正味の遺産額が、1億6千万円か法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税がかかりません。
軽減は、明細を記載した申告書に遺産分割協議書の写しなどを添えて申告し、初めて受けられます。対象は申告期限までに分割された財産で、期限は死亡を知った日の翌日から10か月以内です。まとまらない財産は「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて申告し、申告期限から3年以内に分割すれば対象になります。相続税の申告後に分割して軽減を受ける場合は、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。
二次相続で税が重くなりやすい3つの理由
1つ目は、軽減を受けられるのが被相続人の配偶者に限られることです。母の相続で財産を受け取るのは子で、この軽減の対象になる人がいません。
2つ目は基礎控除です。相続税法第十五条により、基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します(放棄した人も数に入れます)。母の相続では相続人が子だけになり、数が一人減るぶん控除も小さくなります。
3つ目は、母が父から受け取った財産が、母の固有の預金や自宅と合わさることです。母の相続で子が取得する財産は、原則として相続税の計算対象になります(相続税法第二条)。
分け方を決めるとき家族で見る3つのこと
まず母の固有の預金と年金の見込みを並べ、母の暮らしに要る額は母が相続します。次に自宅は誰が住み続けるかを決めます。そのうえで、残りを子が受け取るかを話し合います。
迷ったら母の固有財産の一覧を持って、税理士か税務署の相談窓口へ相談しましょう。
母に全部を渡すと決める前に、次の相続まで見通す
母に全部を寄せれば、配偶者の税額軽減で当面の税は軽くなります。ただしその財産は母の相続で子に課税され、そのときは軽減を受ける配偶者がおらず、基礎控除の人数も減っています。母の暮らしを守る額を軸に子の取り分を家族で決め、申告期限内に分割と申告を済ませることが備えになります。
税務署から届いた相続税の封筒。課税が決まった通知ではないが、放っておくと損をする