国民年金の加入期間の5年延長を見送ったのは「低年金対策の方向転換」だとみる理由

数年前から大きな話題になっていたのは、60歳という国民年金の加入上限を65歳に引き上げして、加入期間を5年延長する案です。

厚生労働省が5年ごとに実施している、年金の財政検証の結果が2024年7月3日に発表されましたが、この案の実施による年金の給付水準の変化などが試算されています。

財政検証の中で試算が実施されると、翌年あたりに改正の可能性が高まるのですが、厚生労働省は早々と改正の見送りを発表したのです。

この理由のひとつは「厚生労働省が重視する低年金対策を方向転換したから」だと推測するのですが、詳細は次のようになります。

国民年金の加入期間5年延長を厚生労働省が見送った理由

国民年金の被保険者は3つの種類がある

国民年金の保険料を納付した期間や、保険料の納付を免除された期間などの合計が原則として10年以上ある場合、老齢基礎年金の受給資格期間を満たします。

そのため65歳になると国民年金から、保険料の納付月数などに応じた老齢基礎年金が支給されます。

このように所定の要件を満たすと年金が支給される方を、保険用語で被保険者と言うのですが、国民年金の被保険者は次のような3つの種類があるのです。

【第1号被保険者】

日本に住んでいる20歳以上60歳未満のうち、第2号や第3号になる要件を満たさない自営業者、フリーランス、農業者、無職の方などが第1号被保険者になります。

第1号被保険者になった方は、2024年度額で月1万6,980円となる国民年金の保険料を、納付書や口座振替などで各自が納付します。

そのため国民年金の加入期間が5年延長になった場合、追加で保険料を納付する可能性が高いのは第1号被保険者です。

また追加で納付する保険料の総額は、101万8,800円(1万6,980円×12月×5年)くらいになると推測されます。

ただ第1号被保険者が納付する国民年金の保険料は、賃金や物価の変動率を元にして、毎年4月に金額を改定しているので、この通りになるとは限りません。

【第2号被保険者】

正社員として働く方や、後述する5つの要件を満たしている短時間労働者などは、70歳になるまで厚生年金保険に加入します。

厚生年金保険に加入している方は、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない一部の方を除き、65歳になるまで第2号被保険者になります。

つまり厚生年金保険の加入者は原則として65歳まで、厚生年金保険と国民年金に同時加入するのです。

ただ給与から控除された厚生年金保険の保険料の一部は、国民年金の保険料に変わるため、同時加入している間は国民年金の保険料を納付する必要はないのです。

また現状でも厚生年金保険の加入者は、原則として65歳までは第2号被保険者になるため、国民年金の加入期間が5年延長になったとしても、特に影響はないと推測されます。

【第3号被保険者】

第2号被保険者に扶養されている配偶者(20歳以上60歳未満)のうち、年収130万円未満などの所定の要件を満たす方は、届出を実施すると第3号被保険者になります。

また第3号被保険者は第1号被保険者と違って、各自が国民年金の保険料を納付する必要はないのです。

その理由として第3号被保険者の国民年金の保険料も、第2号被保険者の給与から控除された厚生年金保険の保険料から賄われているからです。

国民年金の加入期間が5年延長になった場合、60歳以降は第3号被保険者も国民年金の保険料を納付するのかは不明なので、今後の注目点だと思います。

60歳以降は第3号被保険者も国民年金の保険料を納付するか不明

国民年金の加入期間の5年延長によって増える年金額

厚生労働省が国民年金の加入期間を5年延長する案を検討したのは、低年金対策という面が大きいのです。

20歳から60歳までの40年(480月)の間に、一度も未納にしないで国民年金の保険料を納付すると、満額の老齢基礎年金を受給できます。

例えば68歳以下の方に支給される満額の老齢基礎年金は、2024年度額で81万6,000円(月額だと6万8,000円)です。

この金額を国民年金の保険料を納付する480月で割ると、1,700円(81万6,000円÷480月)になります。

そのため、国民年金の保険料をひと月納付すると老齢基礎年金が1,700円増えるだけでなく、国民年金の保険料をひと月未納にすると老齢基礎年金が1,700円減ります。

また国民年金の加入期間が5年延長になった場合、10万2,000円(1,700円×12月×5年)ほど、満額の老齢基礎年金が増える可能性があるのです。

厚生年金保険の適用拡大も低年金対策になる

厚生年金保険に加入する次のような5つの要件を引き下げ、廃止または撤廃して、この適用を拡大することも低年金対策になります。

・ 賃金の月額が8万8,000円(年収だと約106万円)以上

・ 所定労働時間(契約で定めた労働時間)が週20時間以上

・ 2か月を超えて雇用される見込みがある

・ 学生ではない

・ 勤務している企業の規模が、従業員数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)

その理由として老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたうえで、厚生年金保険の加入期間がひと月以上ある方には、次のように算出する老齢厚生年金が65歳から支給されます。

  • 厚生年金保険の加入中に勤務先から受け取った給与の平均額×給付乗率(2003年4月以降の期間は原則として5.481/1000)×厚生年金保険の加入月数

また厚生年金保険の加入月数が長くなるほど、老齢厚生年金の金額が増えるため、厚生年金保険の適用拡大は低年金対策になるのです。

厚生年金保険の適用拡大は低年金対策になる

60歳以降も厚生年金保険に加入した方が良い理由

2024年の財政検証では厚生年金保険に加入する5つの要件を、次のように改正した時の年金の給付水準の変化なども試算されています。

・ 企業規模の要件を廃止する

・ 企業規模の要件を廃止すると共に、賃金の月額が8万8,000円以上という賃金要件を撤廃する

・ 所定労働時間が週10時間以上の短時間労働者を、すべて厚生年金保険に加入させる

これらの見送りを厚生労働省は発表していないだけでなく、企業規模の要件の廃止については、かなり前向きな意見を出しているのです。

そのため厚生労働省は重視する低年金対策を、国民年金の加入期間の5年延長から厚生年金保険の適用拡大に、方向転換した可能性があります。

厚生年金保険の保険料は年齢を問わず、給与の金額で決まりますが、例えば月給が9万3,000円未満だった場合、ここから控除される保険料は月8,052円です。

このように給与の金額によっては、国民年金の保険料の半分くらいで済むというメリットがありますが、60歳以降に生じる隠れたデメリットもあります。

それは60歳から65歳までの間に、第2号被保険者として国民年金に加入した月数は、老齢基礎年金の金額に反映されないため、1月あたり1,700円増えない点です。

ただ厚生年金保険の加入月数が480月に満たない時には、65歳から支給される経過的加算が1月あたり1,700円くらい増える場合があります。

つまり老齢基礎年金は増えなくても、経過的加算は増える可能性があるため、60歳から65歳までの間に第2号被保険者になることは、必ずしも無駄ではないのです。

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情報提供元: マネーの達人
記事名:「 国民年金の加入期間の5年延長を見送ったのは「低年金対策の方向転換」だとみる理由