高齢者が医療を受けづらくなるのは「マイナ保険証」だけが原因ではない
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紙やプラスチックの従来の健康保険証は、2024年12月2日に新規発行や再発行が停止されます。

そこから最長1年の猶予期間は、従来の健康保険証を使えるのですが、これを過ぎるとマイナ保険証(健康保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカード)に一本化されます。

ただマイナンバーカードの取得は義務ではないため、これを取得していない方や返納した方などには、従来の健康保険証の代わりになる資格確認書が発行される予定です。

マイナ保険証の利用率は低迷が続いているため、政府はマイナ保険証の利用者人数の増加量に応じた一時金を、医療機関に支給することにしました。

一時金の金額は最大で20万円(診療所・薬局は10万円)でしたが、2024年6月に政府は40万円(診療所・薬局は20万円)に引き上げる方針を決めたのです。

そのためマイナ保険証の利用を促されると思いますが、何らかの理由で使えなかった時に、高齢者が難しいと感じる対応を求められるので、医療を受けづらくなるのです。

また高齢者が医療を受けづらくなる原因は次のように、マイナ保険証だけではないのです。

高齢者が医療を受けにくくなる原因

マイナ保険証の代わりになる2つの手段

医療機関の窓口でマイナ保険証を使えず、そのうえ手元に従来の健康保険証がなかった場合、医療費の10割負担を求められる可能性があります。

こういった事態が起きないように厚生労働省は、マイナ保険証の代わりになる次のような手段を記載した通知を、医療関係者などに出したのです。

(1)被保険者資格申立書

マイナ保険証の代わりになる1つ目の手段は、次のような記入事項がある被保険者資格申立書という書類です。

・保険証の有無

・保険種別(社保、国保、後期など)

・保険者等名称(健康保険組合の名称など)

・事業所名

・保険証の交付を受けた時期

・一部負担金の割合(3割、2割、1割など)

・マイナンバーカードの券面事項等(氏名、生年月日、性別、住所)

医療機関が患者に対して、被保険者資格申立書を可能な限り記入してもらって提出を受ければ、自己負担は10割ではなく本来の割合になります。

また過去に受診歴があるため、これらの情報を医療機関が把握できている場合、患者に変更点がないことを口頭で確認すれば、被保険者資格申立書の提出があったと見なします

(2)マイナポータル

マイナ保険証の代わりになる2つ目の手段は、マイナポータルという政府が提供するウェブサイトです。

患者が自分のスマホでマイナポータルにログインし、資格情報が表示された画面をマイナ保険証と一緒に提示すると、自己負担は10割ではなく本来の割合になります

また資格情報をPDFファイルでダウンロードし、それが表示されたスマホの画面を、マイナ保険証と一緒に提示しても良いのです。

マイナ保険証の代わりになる手段を利用するのは難しい

2024年6月に岐阜県に住んでいる高齢の女性が、地域のクリニックの窓口でマイナ保険証を使ったところ、カードリーダーに「資格情報なし」と表示されました。

また従来の健康保険証が手元になかったので、クリニックの事務員は10割負担か、被保険者資格申立書を記入するかの、いずれが良いのかを質問したのです。

マイナポータルではなく被保険者資格申立書を勧めたのは、「資格情報なし」と表示されたため、マイナポータルにも反映されていないと推測したのかもしれません。

付き添いで来ていた女性の夫は、症状が落ち着いてきたことに加え、10割も支払う持ち合わせがないという理由で、その日は受診を諦めて帰宅しました。

女性の夫は従来の健康保険証を持って、翌日に出直すつもりだったのですが、翌日未明に女性の容体が悪化して、帰らぬ人になってしまったのです。

その場で被保険者資格申立書を記入していれば、このような悲劇は起きなかった可能性がありますが、女性の夫は記入するのが難しいと感じたのかもしれません。

例えば75歳以上で後期高齢者医療に加入している場合、所得によって自己負担金の割合は1~3割になるため、「一部負担金の割合」の欄は記入するのが難しいと推測します。

いずれにしろ何らかの理由でマイナ保険証を使えなかった時に、高齢者が難しいと感じる対応を求められるとしたら、医療を受けづらくなると思います。

デジタル化によって医療を受けるのが難しくなる

完全ネット予約のクリニックに直接来院した高齢の男性が、受診を断られているのを見たという投稿が新聞社に寄せられました。

そこで2024年5月に紙面で紹介したところ、多くの意見や感想が届いたそうです。

高齢者も努力が必要という意見もありましたが、デジタル化の進展の早さに驚きを感じると共に、不安や怒りを訴える方が多かったようです。

また新聞社がクリニックに取材したところ、受付の職員は業務が忙しいため、患者の代わりにネット予約するのは難しいという回答がありました。

こういった医療機関が増えていくとしたら、デジタル化についていけない高齢者は、受診できる医療機関の選択肢が少なくなるのです。

医療機関によっては問診票のデジタル化を進め、各人のスマホから記入するため、将来的には予約以外の理由でも、受診できる医療機関が少なくなっていくのかもしれません。

そのため高齢者が医療を受けづらくなるのは、マイナ保険証だけが原因ではなく、デジタル化も原因のひとつだと思います。

デジタル化とマイナ保険証から生じるトラブルに対処する

高齢者が今後も医療を受けるためには、デジタル化とマイナ保険証から生じるトラブルの、両者に対処する必要があるのです。

前者のデジタル化から生じるトラブルに対処するには、スマホの使い方を少しずつでも覚えることだと思います。

マイナンバーカードの取得による複数のメリットを享受するためには、マイナポータルにログインする必要があります。

またマイナポータルにログインできないと、資格情報が表示されたスマホの画面を提示できないため、マイナポータルのログイン方法を覚えるところから始めるのです。

後者のマイナ保険証から生じるトラブルに対処するには、医療機関やネット上で被保険者資格申立書を入手したら、いつでも使えるように自宅で記入しておくのです。

ただマイナ保険証の保有者には、これが使えない時に代用できる「資格情報のお知らせ」が送付される予定のため、今後は事前に記入しておく必要がないのかもしれません。

またスマホを持っている方であれば、自宅で資格情報のPDFファイルをダウンロードし、その保存場所を把握しておくのです。

このように事前にダウンロードしておけば、医療機関の窓口でマイナポータルにログインできなくても、慌てずに済むと思います。

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情報提供元: マネーの達人
記事名:「 高齢者が医療を受けづらくなるのは「マイナ保険証」だけが原因ではない