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新聞などの報道によると、2024年4月に入社する新入社員の初任給を、大幅に引き上げする企業が増えるようです。
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おそらく2023年にも同様の報道があったと思うのですが、初任給の支給日あたりに実施された調査の平均額は、前年と大きな変化がなかったという印象があります。
例えば東証プライム上場企業の157社を対象に、労務行政研究所が実施した調査によると、2023年4月に入社した大卒新入社員の初任給の平均額は、前年比で3.1%増の22万5,686円でした。
確かに大幅な引き上げになりますが、2023年平均の全国消費者物価指数は前年比で3.1%の上昇だったので、初任給の伸びから物価の上昇率を差し引くと、前年と大きな変化がないのです。
初任給からは税金や社会保険の保険料が天引きされるため、実際に受け取れる手取りは、この金額よりも少なくなります。
また初任給が同額でも次のような3つの理由により、手取りが違う場合があるのです。
連合が2024年3月15日に発表した、2024年春闘の第1回回答集計値によると、基本給を底上げするベアと定期昇給分を合わせた賃上げ率の平均値は、5.28%という結果でした。
仮に大卒新入社員の初任給が、この分だけ2023年よりも引き上げされた場合、23万7,602円くらいになります。
月給が基本給のみで、その金額が23万7,602円だった場合、月給から天引きされる2024年4月時点の雇用保険と厚生年金保険の保険料は、次のような金額になります。
・ 雇用保険:月1,426円(一般の事業の場合)
・ 厚生年金保険:月2万1,960円
雇用保険と厚生年金保険の保険料は大まかに表現すると、給与に対して保険料率を乗じて算出するため、将来的に月給が増えると保険料が上がるのです。
月給からは健康保険の保険料も天引きされますが、雇用保険と厚生年金保険の保険料率は全国一律なのに対して、健康保険の保険料率は一律ではないのです。
2種類ある健康保険のうち、主に中小企業の社員などが加入する協会けんぽ(全国健康保険協会が運営)は、各都道府県にある支部ごとに保険料率が変わります。
また主に大小企業の社員などが加入する組合健保は、これを運営する健康保険組合ごとに保険料率が変わります。
例えば2024年4月時点の協会けんぽの保険料率は、もっとも高い佐賀支部が10.42%で、もっと低い新潟支部が9.35%になります。
月給が基本給のみで、その金額が23万7,602円だった場合、これらの支部の保険料は、介護保険に加入しない40歳未満だと、次のような金額になるのです。
・ 佐賀支部:月1万2,504円
・ 新潟支部:月1万1,220円
健康保険の保険料は賞与からも天引きされるため、年間では数万円くらい手取りが変わると思います。
なお雇用保険については、どこの企業に勤務している場合でも、最初に支給される給与から保険料の天引きが始まります。
一方で厚生年金保険と健康保険については、4月分の保険料を5月の月給から天引きする企業だけでなく、4月分の保険料を4月の月給から天引きする企業もあるのです。
そのため加入している健康保険の種類だけでなく、こういった保険料が天引きされる時期も、初任給の手取りに影響を与えます。
企業によっては就業規則や賃金規程に、通勤手当や住宅手当などの各種の手当を支給することや、その計算方法が定められています。
例えば基本給の23万7,602円に加えて、月2万円の通勤手当(住宅手当)が支給される場合、それぞれの保険料は次のような金額になります。
・ 雇用保険:月1,546円(一般の事業の場合)
・ 厚生年金保険:月2万3,790円
・ 健康保険:月1万3,546円(佐賀支部)、月1万2,155円(新潟支部)
一方で基本給の23万7,602円に加えて、月4万円の通勤手当(住宅手当)が支給される場合、それぞれの保険料は次のような金額になります。
・ 雇用保険:月1,666円(一般の事業の場合)
・ 厚生年金保険:月2万5,620円
・ 健康保険:月1万4,588円(佐賀支部)、月1万3,090円(新潟支部)
このように基本給が同額であっても、各種の手当が支給される場合には、保険料の負担が増える場合が多いため、手取りが違ってくるのです。
会社員(パートやアルバイトも含む)などの、給与を受け取る方に課税される所得税は、大まかに表現すると次のような手順で算出します。
(A) 1~12月の給与の合計額-給与所得控除額=給与所得
(B) 給与所得-所得控除(配偶者控除、扶養控除、障害者控除、勤労学生控除など全部で15種類)の合計額=課税所得
(C) 課税所得×5~45%の税率(課税所得が増えると段階的に税率が上がる)-税額控除(住宅ローン控除など)の合計額=所得税
以上のようになりますが、 (B) の所得控除をいくつ受けられるのかで、所得税の金額が変わってきます。
そのため勤務先は入社の際に各従業員に対して、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらい、どの所得控除を受けられるのかを確認しているのです。
提出を忘れると該当する所得控除を受けられなくなるため、給与から天引きされる所得税が増え、手取りが減ってしまうのです。
また提出を忘れると給与から天引きされる所得税の区分が、扶養親族の数や障害の有無などで金額が変わる「甲」から、誰でも同額の「乙」になります。
後者の「乙」になると前者の「甲」よりも、給与から天引きされる所得税が増えてしまうのです。
これにより手取りが減ってしまうので、該当する所得控除がひとつもない方も、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した方が良いのです。
なお住民税は1~12月の給与の合計額を元にして、住所地の自治体が計算し、その翌年6月~翌々年5月の月給から天引きされます。
そのため4月入社の新入社員の場合、最初に支給される給与から所得税が天引きされますが、住民税は入社した年の翌年6月まで天引きされないのです。
例えば勤務先の近くに引っ越したり、テレワークを利用したりして、通勤手当を減らすと、社会保険の保険料は下がる場合が多いため、その分だけ手取りは増えます。
ただ原則65歳から受給できる老齢厚生年金などの、社会保険から支給される保険給付は、給与の金額を元にして算出するため、通勤手当が減ると保険給付も減ってしまう場合があります。
一方で所得税や住民税は、納付する金額が下がっても社会保険のようなデメリットはないため、できるだけ抑えた方が良いのです。
そのための対策のひとつが (B) の所得控除になるため、国税庁のウェブサイトなどを見て、どの所得控除を受けられるのかを十分に把握し、受け忘れをなくしたいところです。
また例えば学生時代にアルバイトをしていた時に、勤労学生控除という所得控除を受け忘れた場合、過去5年以内であれば遡って受けられます。
そうするとアルバイト代から天引きされた所得税が還付されるため、心当たりがある方は還付申告の手続きを実施したいところです。