- 週間ランキング
60歳以降に公的年金制度から支給される年金としては、次のような3つがあります。
60~64歳(性別や生年月日などで変わる)になると厚生年金保険から、暫定的な措置で支給される「特別支給の老齢厚生年金」
65歳になると厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」
65歳になると国民年金から支給される「老齢基礎年金」
また国民年金に加入する年齢の上限は60歳ですが、厚生年金保険に加入する年齢の上限は70歳です。
そのため60歳以降に年金の支給が始まった後も、最大で70歳まで厚生年金保険に加入する方がいるのです。
こういった方は次のような2つの合計額が48万円を超えると、老齢基礎年金以外の年金(特別支給の老齢厚生年金、老齢厚生年金)の全部または一部がカットになります。
月給+その月以前1年間の賞与の合計額÷12
特別支給の老齢厚生年金(65歳以降は老齢厚生年金)÷12
70歳以降は厚生年金保険に加入しませんが、厚生年金保険の適用事業所で働いている場合には、同様の仕組みで老齢厚生年金がカットになります。
このような仕組みで年金がカットされるのは、在職老齢年金という制度があるからです。
また在職老齢年金によるカットを心配する方は、次のような3つのステップを踏むのが良いと思います。
中国の古典的な兵法書の中に、
「彼を知り己を知れば、百戦殆からず(敵と味方の情勢をきちんと把握して戦えば、何度戦っても敗れることはない)」
という言葉があります。
そのためステップ1では、敵である在職老齢年金の制度内容などを、きちんと把握するのです。
在職老齢年金の制度内容で大切なのは、給与と年金を合計して48万円を超えるのかを判定する際に、次のような年金は含めない点です。
老齢基礎年金
障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金など)
遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金など)
所定の配偶者や子供を扶養している方に対して、老齢厚生年金に加算して支給される「加給年金」
加給年金の対象になっている配偶者が65歳になった時に、暫定的な措置で支給される「振替加算」
例えば20歳未満や60歳以降に、厚生年金保険の加入期間がある方に支給される「経過的加算」
逆に言えば判定の際に給与と合計するのは、特別支給の老齢厚生年金(65歳以降は老齢厚生年金)になります。
このように判定に含める年金は意外に少ないため、60歳以降に働くと誰もがカットになるわけではないのです。
厚生労働省の年金局が作成している、「高齢期における年金制度」という資料を見てみると、実際にどのくらいの年金受給者が、カットの対象になったのかがわかります。
この資料によると65歳以降の在職している年金受給権者(約287万人)のうち、老齢厚生年金が一部でもカットになったのは約49万人(在職受給権者の約17%)でした。
また老齢厚生年金の全部がカットになったのは、約20万人(在職受給権者の約8%)だったので、約8割の年金受給者は65歳以降に働いても影響がないようです。
在職老齢年金の制度内容などを把握した後は、ステップ2で己である自分を把握するのです。
それは例えば60歳以降も働き続けた時に、
自分がカットの対象になるのか、
またカットの対象になった場合の金額を把握することです。
自分で計算して調べても良いのですが、パソコンやスマホから基礎年金番号、年金記録、年金の見込額などを確認できる、ねんきんネットを利用した方が良いと思います。
その理由としては60歳以降の給与の見込額を入力すると、カットになる特別支給の老齢厚生年金や老齢厚生年金が、自動的に試算されるからです。
また試算結果にカットされる金額が表示されなかった場合には、カットの対象ではないとわかります。
なおマイナンバーカードを持っている方であれば、これを使ってマイナポータルにログインした後に、簡単な連携手続きを実施すると、ねんきんネットの利用が可能になります。
ステップ3ではカットの対象になった方が、在職老齢年金に勝つ方法(カットにならない方法)を考え、それを実行するのです。
60~70歳までの間に在職老齢年金によって年金がカットされるのは、厚生年金保険に加入している場合です。
そのため労働時間を減らして、厚生年金保険に加入しなければ良いのですが、労働時間を減らした分だけ給与が減ります。
こういった問題点をクリアしたうえで、カットの対象にならないようにする方法としては、次のような3つがあると思います。
60歳以降に厚生年金保険の適用事業所の要件を満たさない、小規模の個人事業(例えば従業員がいない、または従業員数が5人未満)を始めれば、労働時間が何時間になっても年金はカットされません。
また労働時間が何時間になっても、厚生年金保険の加入要件を満たさない、業務委託で働くという方法もあります。
2016年10月から社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用が拡大されたので、次のような5つの要件を満たすと厚生年金保険に加入します。
所定労働時間(契約上の労働時間)が週20時間以上
賃金の月額が8万8,000円(年収だと約106万円)以上
学生ではない
雇用期間の見込みが2か月を超えている
従業員数が101人以上、または労使の合意がある101人未満の企業で働いている
例えば本業の企業の所定労働時間が週15時間、副業の企業の所定労働時間が週10時間という場合、合計で25時間になるため、週20時間以上という要件を満たします。
ただ社会保険に加入するのかを判定する際は、両者の労働時間を合算しないため、どちらも20時間未満であれば、本業だけでなく副業の企業でも厚生年金保険に加入しません。
また本業の企業では厚生年金保険に加入しても、副業の企業では加入しない場合、48万円を超えるのかは本業の企業から受け取った給与と年金の合計額で判定します。
つまり副業の企業から受け取った給与は含めないため、48万円を超えにくくなるのです。
年金がカットされない範囲内に、月給と賞与の金額を引き下げして、差額を勤務先に積立してもらい、それを退職する時に受け取るという方法があります。
例えば45万円の月給を40万円に引き下げして、差額の5万円を企業内の退職金制度、中小企業退職金共済、企業型DCなどに積立し、それを退職する時に受け取るのです。
従業員数が少ない小規模の企業であれば、労働条件の変更に応じてくれる可能性があるため、検討してみる価値はあると思います。