繰り上げの減額率が旧来の0.5%から0.4%となる(生年月日による区分があり)など制度としても改正が進められている繰り上げです。

他方、繰り上げの決断をすべき前には認識しておくべき部分が多数あり、今回は繰り上げ制度において認識しておくことが求められる点を解説します。

健康保険証の廃止後にやるべきことは、年金手帳の廃止後と同じである

なぜ繰り上げの選択肢が出てくるのか

まず、本来であれば65歳から受給開始となる年金を早くから受給開始するため、一定の減額率の適用があることは多くの方が認識されている通りです。

そもそも繰り上げの検討がされる背景としては、

「まとまったお金が必要になった」

「余命宣告された」

等が考えられます。

1点目の「まとまったお金が必要になった」の背景としては退職勧奨等によって労働収入がなくなったものの子供の学費の捻出のため(晩婚化の時代となり今後もより多く想定される)、あるいはコロナが明けつつあり、個人事業主として業態転換が必要となり、そのための資金等が考えられます。

2点目の「余命宣告された」の背景としては余命宣告されたといえども、一定以上の医療費の支払いは避けられず、そのための必要なお金であったり、65歳を待っていては納めた保険料と比較するとほとんど受けられないため繰り上げをするという視点も十分に考えられます。

損的分岐点

仮に60歳繰り上げ請求をした場合、損益分岐点は概ね81歳と言われています。

繰り上げした場合の損益分岐点とは、これよりも長生きすると65歳から受給していた方が「お得」であったという分岐点です。

ただし、実際に何歳まで生きられるのかは誰もわかりませんので、明確に予測することに注力することは本質的ではありません。

制度的な留意すべき点

まず、繰り下げと違い、繰り上げは既に受給を開始しているため、撤回ができません。

その当時事業の運転資金でまとまったお金が必要と思っていたところ繰り上げ請求後にその必要性が乏しくなったとしても繰り上げ請求後では撤回することはできません

また、老齢基礎年金を増やすための選択肢として、過去に免除を受けていた期間分の国民年金保険料の追納や国民年金への任意加入制度(可能な限り満額の年金を受け取るため)にも加入できなくなります

また、減額率についても65歳になったからといってなくなるわけではなく、一生涯にわたって減額された年金額を受給することとなります。

他の年金への影響

例えば繰り上げ請求したものの、不幸にも遺族厚生年金の受給権が発生した場合です。

この場合、いずれかの年金を選択することとなります(1人1年金の原則)が、仮に遺族厚生年金を選択したとしても老齢年金に対する減額率が取り消されるわけではありません

他には繰り上げ請求した場合、事後重症による障害年金を請求することができなくなります

事後重症による障害基礎年金は65歳に達すると請求できなくなります。

繰り上げ請求時点では実際の年齢は65歳未満ではあるものの、年金制度上は65歳に達しているとみなされるため、このような建て付けとなっています。

また、厚生年金の長期加入者の特例や障害者特例の受けることができなくなる点もあります。

慎重な検討が大切です

繰り上げについては配偶者がいる場合には夫婦トータルで検討することが重要です。

家庭における貯蓄額と夫婦それぞれの年金額を勘案し、65歳からの受給開始ではなく、本当に今、繰り上げ請求すべきなのかを(繰り上げ請求後に制度的なデメリットを甘受してまでも)検討していくことが重要です。

もちろん、繰り上げ請求は悪いことではありませんが、繰り上げ請求していなければ活用できた制度(例えば任意加入)が活用できなくなる点があるため、慎重な検討が求められます。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)

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情報提供元: マネーの達人
記事名:「 年金の「繰り上げ制度」において認識しておくべきこと