- 週間ランキング
この「106万円の壁」で注意すべきなのは、(A)に記載した「1か月あたりの決まった賃金」の中に、通勤手当は含めない点です。
一方で例えば20歳以上60歳未満の妻が、夫の社会保険の扶養に入るためには、年収130万円未満が要件になるため、「130万円の壁」と呼ばれております。
この「130万円の壁」に関しては通勤手当を含めるため、1年分の基本給や通勤手当などの合計が、130万円以上になる見込みの方は、社会保険の扶養から外れてしまうのです。
社会保険に加入するか否かを判定する際には、上記のように通勤手当を含めないのです。
しかし社会保険に加入した後に、月給から控除される保険料を算出する際には、通勤手当を含めるのです。
そのため例えば東京都の協会けんぽに加入している場合、介護保険の対象にならない40歳未満の社会保険の保険料(2022年3月分以降)は、通勤手当の金額によって、次のように変わるのです。
健康保険:月9,810円、厚生年金保険:月1万8,300円
健康保険:月1万791円、厚生年金保険:月2万130円
健康保険:月1万1,772円、厚生年金保険:月2万1,960円
このように通勤手当が増えるほど、月給から控除される保険料が多くなるため、勤務先の近くに住んでいた方が有利になります。
ただ月給から控除される保険料が多いほど、原則65歳になった時に、厚生年金保険から支給される老齢厚生年金が増えるのです。
また業務外の病気やケガで仕事を休んだ時に、健康保険から支給される傷病手当金も金額が増えるため、デメリットばかりではないのです。
年末調整の際に必要となる、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という書類を見てみると、1~12月までの「収入金額」の見積額を記入する欄があります。
その理由としては年末調整で受けられる、配偶者(特別)控除の金額を算出する際に、納税者本人とその配偶者に関する、1~12月までの「収入金額」の見積額のデータが必要になるからです。
この見積額を会社員(正社員、パート、アルバイトなど)の方が算出する際は、
例えば電車、バスなどの交通機関だけを利用して通勤する場合、非課税扱いになる通勤手当、または現物支給の通勤定期券の限度は、
1か月あたり15万円
になります。
一方でマイカー、バイク、自転車などの交通用具だけを利用して通勤する場合、次の表に記載されているように、勤務先までの片道の通勤距離によって、非課税扱いになる金額の限度が決まるのです。
参照元:国税庁 No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
例えば駅まではマイカー、その後は電車というように、交通機関と交通用具を併用して通勤する場合、次の(1)と(2)の合計額が、非課税扱いになる限度(ただし1か月当たり15万円まで)になります。
(1)1か月間の通勤定期券などの金額(電車、バスなどの交通機関の分)
(2)片道の通勤距離によって算出した限度(マイカー、バイク、自転車などの交通用具の分)
勤務先から支払われた通勤手当などが、こういった限度額を超えてしまった場合、その超えた部分については、1~12月までの「収入金額」の見積額の中に含める必要があるのです。
例えば夫が勤務先の年末調整で、38万円の配偶者(特別)控除を受けたい場合、かつては妻がパートの労働時間などを調整して、年収を103万円以下に抑える必要がありました。
この103万円が2018年1月から、150万円に引き上げされたため、「103万円の壁」は「150万円の壁」に変わったのです。
ただし38万円の配偶者(特別)控除を受けるには、夫の収入が給与だけの場合、年収1,095万円以下という要件を満たす必要があります。
また妻の年収が201万円を超えると、夫は配偶者(特別)控除を1円も受けられなくなるため、「201万円の壁」も存在します。
こういった「150万円の壁」や「201万円の壁」などの、税制上の扶養に入るための基準については原則として、通勤手当を含めないで判定するのです。
その理由として通勤手当は、上記のように金額が高くなければ、非課税扱いになる場合が多いからです。
一方で社会保険の扶養に入るための「130万円の壁」については、通勤手当を含めて判定するため、税制上の扶養と社会保険の扶養で取り扱いが変わるのです。
それぞれの壁を超えるか否かの、ぎりぎりの年収で働いている方は、こういった通勤手当の取り扱いに、注意した方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)