【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

中国政府による「飯圏」規制を、日本では「思想統制」とか「文革への逆戻り」などと解説しているが、笑止千万。飯圏はアイドルへの狂信的な十代前半のファンの心を操り暴利をむさぼっている闇ビジネスの一つだ。

◆「飯圏(ファン・チュエン)」とは何か?
「飯圏」の「飯」は中国語では[fan](ファン)と発音し、日本語の「ファン」を音に置き換えたもので、「飯圏」とはアイドルを追いかけるファンたちのグループ」のことだ。

日本の動漫(動画や漫画)が80年代に中国を席巻したように(参照:拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』、2008年)、中国はつぎつぎと日本のサブカルチャーを模倣していき、この「飯圏」も日本のAKB48などにヒントを得たという側面を持つ。

しかし中国はどんなことでも「えげつないほどに」ビジネス化していく国。

中国では特定の芸能人(タレント、アイドル)が所属する事務所(民営の企業)が十代前半の、まだ社会的判断力もつかないファンたちをネットで組織化して煽り、「荒稼ぎ」をするだけでなく、そのタレントの悪口を言ったり嫌ったりしている人が一人でもいると個人情報を暴いてネットで総攻撃を仕掛けて死に追いやるまで虐める行為が問題となっている。

どういうことか、一つの例を挙げてみよう。

たとえばXという人気の高いアイドルがいたとする。

そうすると、Xが何月何日何時のどこ発のフライトに乗るという情報を持っている人がネットに現れ、その情報の売り買いをネットでする。

同じフライトに乗ったり、あるいはチケットが買えない場合は、到着する飛行場で待ち受けるという「出待ち」をしたりする。

次は盗撮行為。この写真をまたネットで販売する。

もし憧れのタレントXの悪口を言う者がネットに現れたりすると、その人物のプライバシーを徹底的に暴いて、家族を含めたターゲットめがけて総攻撃を始める。ネットに実名や顔写真や住所はもとより、さまざまなプライバシーが全てさらされた本人は、いたたまれなくなって自殺する場合さえある。

プライバシーなど、たとえば警察に小銭を渡せば、喜んで秘密情報を「売ってくれる」警官など、いくらでもいるので細部にわたって入手できる。

これら一連の動きの背後にはタレントXが所属する事務所があって、別の事務所の人気タレントYと競わせ、ネットにおける「人気ランキング」で上位にランクされるように、金が動くという仕掛けがある。

◆十代前半の熱狂的ファンをあやつる闇ビジネス
今年8月12日付の中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は、<大量の時間を費やし、金でランキングを応援するのは何のため?>(※2)というタイトルで以下のような報道をしている。

今年6月に上海青年研究センターが7,000人以上の中学生を対象に行った調査によると、44.9%の中学生が、以下のような行為を事務所にあやつられて「飯圏」に参加していることが分かった。

・好きなアイドルのランキングを上位に押し上げる
・好きなアイドルに反対するコメントを叩き攻撃し、時には通報する
・さまざまなネットプラットフォームで、自分の好きなアイドルを褒めるコメントを書き込み、褒めるコメントに「いいね」を押して、反対するコメントを通報する
・ファンの資金を集めて、みんなで好きなアイドルのために消費する
・Weiboなどで、自分の好きなアイドルの超話(スーパー話題=ツイッターのトピックみたいなもの)で発言し、コメントする
・アイドルのライブを観にいく
・投げ銭などを含めて好きなアイドルにプレゼントを贈る
・QQなどのインスタントメッセンジャーソフトで、アイドルのファンチャットグループに参加する
・好きなアイドルのグッズなどを転載したり、そのアイドルが出演するCMの対象商品を購入する・・・などなど

こうしてアイドル事務所による「人気アイドル」の「虚像」が「金」と「事務所にあやつられた若者の行動」によって創り上げられ、事務所および関係する企業がぼろ儲けをしていくという仕組みが大規模に組織化されて闇でうごめいている。

また、たとえば、タレントXとライバル関係にあるようなタレントYがいたとき、Xの「飯圏」たちはYに負けまいと、より多くの投げ銭をXに注いだり、Yの激しい悪口をネットに書いて拡散させたりということを互いの「飯圏」メンバーがやっている。

◆青少年は何を求めて「飯圏」に参加するのか?
あるユーチューバーが飯圏のメンバーである妹に取材して(※3)、ネットでタレントXのファンでない者を総攻撃して虐める行為に関して、「なぜそういうことをするのか」と尋ねたところ、妹は「だって気分がいいからさ」と、あっけらかんと答えている。

中国のネットユーザー数は2021年6月時点で10億人以上に達し、ネット普及率は71.6%になっている。

日本でもネットによる攻撃で命を絶った方もおられるが、中国での暴き方と攻撃のスケールは日本と比較にならないほど激しく、自殺が後を絶たない。

「飯圏」のメンバーの多くが社会的判断力をまだ養われていない十代前半の青少年が多いため、自分でお金を稼ぐ能力はない。そこで両親や祖父母のクレジットカードを盗み、両親や祖父母が生涯かけて貯めてきたお金を、アイドル事務所に煽られるままに「飯圏」が応援するアイドルのために使い果たしてしまうというケースも散見される。

何も持たない12歳とか、せいぜい15歳くらいの青少年が、「投げ銭」をアイドルに投げ続けることによって、そのアイドルを人気者にしていったのは自分であり、まるで「自分が育てたのだ」という自己満足を得ることによって自分の存在感を認識するという、ネット社会が生んだ「歪んだ衝動」であり「哀しい現象」の一つだ。

青少年の心を破壊していくだけでなく、家の財産全てを悪徳業者のような闇ビジネスに吸い取られていく不健全な「中国の闇」がそこにはある。

中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。

写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.xinhuanet.com/2021-08/12/c_1127755304.htm
(※3)https://www.bilibili.com/video/av500170059


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情報提供元: FISCO
記事名:「 中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(1)【中国問題グローバル研究所】