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友人に酷いことをされたとき、家族に裏切られたとき、上司に理不尽なことを言われたとき、誰かに酷いことをしてしまったとき、仕事でミスしたとき、ただただその場所や空気感が嫌なとき。何かから逃げたいという気持ちは割とすぐに生まれる。実際に逃げることもあれば、逃げないこともある。逃げられないことも。
マインドコントロールという言葉を最近よく聞くようになった。
特によく聞くのがDV(ドメスティック・バイオレンス:家庭内暴力)でのマインドコントロールだ。DV被害者の中には、簡単に外に出られる環境にあるにも関わらず、助けを求めない人が多い。
命令され、反抗すると暴力を振るわれる。暴力を振るわれるのが嫌で反抗しなくなると、命令されることが当たり前となり、だんだんと自分で考えなくなり、助けを求めることや、今の環境から抜け出すという考えができなくなる。
また、「お前が悪い」などの言葉を何度も聞かされているうちにそれが事実だと思い込んでしまって、「私が悪いのだから」という意識になってしまう。
やがて、取り返しのつかないことになってから、やっと世間に知られる。
その時点ではもう遅いのに。
逃げたいと思うことは誰にだってあるが、実際に逃げる人はどれくらいいるのだろう。逃げたいと思っても立ち向かうことが大切なときもあるし、本当に逃げなくてはいけない時もある。だが、「逃げる」というのはなんだかマイナスな言葉にきこえてしまう。その言葉で本当に逃げなくてはいけない人たちをその場所に押さえつけてしまう。
私はストレスがたまると、家から飛び出し、大浴場のあるビジネスホテルに逃げる。
大きなお風呂にゆっくり浸かって、安心感のある狭い部屋に一人でベッドに寝ころびながら、大好きな漫画を読んで、寝たい時に寝る。そうすると次の日には気持ちがリセットされている。しかもビジネスホテルだからお財布にも優しい。
誰かにたまったストレスをぶつけてしまう前に、自分で処理しておきたい。これはプラスの逃げだと思う。
『逃がし屋トナカイ』は、「トナカイ運送」という運送屋を営んでいる凸凹コンビの裏稼業である「逃がし屋」と、そこに依頼してくるワケありな人々を描いた小説だ。
夫からDVを受けている女、借金取りから追われる女など、逃がし屋に依頼してくる理由は様々だ。ふたりは逃がすことでワケありな人々を救っていく。
その依頼者たちは、目の前で起こっていることを放っておくのではなく、逃がし屋トナカイの力を借りて「逃げる」という手段を使って立ち向かっているのだ。
逃げることはマイナスではない。
逃げるということはプラスにもなるということを知っていてほしい。
あなたの近くにあなたにとっての「トナカイさん」はいるだろうか?
私にとってのトナカイさんはビジネスホテルと、ビジネスホテルまで私を運んでくれるホンダ、NBOX。
逃げることから逃げないで。あなたにとってのトナカイさんをみつけてほしい。
(実業之日本社 コンテンツ・ライツ本部 鎌倉 楓)
『逃がし屋トナカイ』 名取佐和子 著 648円+税 実業之日本社
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