仕事小説と思いながら読み進めていたら、恋愛物であり家族物でありヒューマンドラマであり、はたまた推理物と捉えることもできる、なんて多面的な物語なのだろうと魅了された。その小説とは、平山瑞穂 著『プロトコル』である。

舞台はネット通販会社。仕事に対しては生真面目なのに、人間関係は不器用なOL、有村ちさとが遭遇した事件の顛末を描いている。ちさとは、アルファベットの羅列から特定の法則性を見つけ出したり、何百種類もある商品コードをすぐに暗記できたりする特殊能力を持つ。この能力を武器に、ちさとは社内の情報システムの不正を監視する役目を担うこととなり一役買うわけだが、これを機に個人情報漏洩事件に巻き込まれてしまう。

この事件が非常にややこしく、様々な人間が関わってくるのだ。事件を起こしたのはあの人ではないのか、あの人が違うのなら誰なのか、読者は想いを巡らせながら読んでいくことになる。(このあたりは推理小説のようだが、推理小説ほど複雑な伏線などはないため、私のように推理系が苦手な方にも程よく読みやすいだろう。) 展開が気になりどんどん読み進めてしまうわけだ。

また、事件と並行して描かれる父や妹は、キャラが濃く印象に残る。いや、有村ちさと自身もかなりキャラが立っているが、父も妹も負けてはいない。父はブラントン将軍という想像上の人物とともに海外を放浪している。妹のももかは売れないバンドマンを彼氏に持ち、ちさととは正反対の不真面目きゃぴきゃぴ女子である。

会社に行かずにブラントン将軍と海外を旅するという、どうしようもない父だが、なぜか愛おしく感じてしまう。事件に直接関わる人物ではないのに、ちさとにアルファベットの羅列を教えた父の存在は、作品の中で大きく光る。

ももかも同様に、救いようがない妹だと思ってしまうが、優等生の姉にコンプレックスを感じていることを知って同情する。事件終盤戦では、姉と妹が言い合いをした後の両親の言葉に涙する。そのうえ事件の顛末には、ちさとのももかへの愛を感じる。これらがまさに感動の家族物語と言える場面である。

事件の真相が明らかになった後、ちさとがどのような行動に出たのか。これもまた注目してほしい。
「寝た子を起こさない」
なるほど、そんな収束の仕方があったのか、という意外な展開が待っている。さらには恋愛にも繋がったりして…?!

ちなみに、本書に出てくるウイスキーのブラントン(父の相棒、ブラントン将軍のモチーフである)は、読んで以来、飲みたくて様々な店で探しているが、未だに出会えていない。ネットで画像検索してみると、本当にキャップには馬に乗った将軍が乗っていた。早く私も出会いたい。そしたら私も「オン・ザ・ロック」で飲もうかな。ブラントン将軍との出会いが早くも楽しみである。

—追記—
本書を気に入った方は『有村ちさとによると世界は』も読むと面白さ2倍。父親の海外旅、ちさとの恋愛模様、妹目線で見たちさとなど、続編としてもスピンオフ作品としても楽しめる。しかし残念ながら絶版となっているようなので、頼みの綱は図書館かなぁ…

(フィスコ 情報配信部 編集 細川 姫花)

『プロトコル』(実業之日本社文庫) 平山瑞穂 著 本体価格619円+税 実業之日本社




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情報提供元: FISCO
記事名:「 生真面目OLが遭遇した個人情報漏洩事件、その顛末とは【Book】