b) ドミナント戦略 同社の「ドミナント戦略」は、創業以来蓄積した知見やノウハウを最大限活用し、同社の強みが生かせる領域(商圏、商品、サービスなど)に特化し、物流、サービスインフラ体制も含めた経営資源を集中的に投下する差別化戦略である。関西・東海・関東・北信越を重点エリアと位置付けリアル店舗網を構築し、新規出店に頼るのではなく、既存店のスクラップアンドビルドも含めた1店舗当たりの販売力強化に重点を置いた取り組みである。同社は各店舗0~5km圏のシェアをすべて把握しており、エリアを面で見るのではなく、商圏を細分化し、将来の収益拡大が見込めるエリアに絞り込んで出店を行ってきた。そこにECが加わることでリアル店舗がカバーできないエリアのフォローも可能となり、シナジー効果を最大限に発揮できるとみている。また新規出店に依存しないことで、設備投資や人件費、店舗運営コストなども制御できる。一般的なドミナント戦略はある特定のエリアを絞り込んで、集中的新規出店による市場占有率向上を目指すもので、エリア全体を「面」として捉えた考え方であり、同社のドミナント戦略とは異なる。
c) リアル店舗とECのチャネル別戦略 リアル店舗の売上構成比は2025年3月期で80.6%であった。耐久消費財を中心に取り扱う当社のリアル店舗事業を成長させるためには、販売力・接遇力を有する一定数の従業員の配置が必要であり、店舗数の拡大ではなく、質の向上による既存店の売上・収益改善を目指している。そのため、同社ではICTを駆使した効率化投資をスピードアップさせる考えだ。また、同社は店舗営業の長い歴史の中で配送、設置、工事など強いインフラを構築しており、顧客の要望に対して最適な提案ができる接客力にも強みを持つ。今後、「ファンベース戦略」に基づき、個人ステータスに応じた特典を付与する「新ロイヤルティプログラム」の導入により、ファン会員、コアファン会員の新規獲得、1人当たりの顧客生涯価値の拡大をねらう考えだ。顧客満足度の向上のため、高品質なサービスやサポート体制の提供を続けながら、タッチパネルによる商品選択やオンライン接客、セルフレジ、接客支援システムの導入など、ICTを駆使した新たなサービスも加速させる。それに加え、従業員の専門資格取得の後押し、社内教育体制の強化による販売力・提案力・接遇力の強化も図る。
d) 5カテゴリ別戦略 同社が顧客に価値を提供する5カテゴリとは、主力事業である「家電」、高いシェアを誇り、ホビーユーザーからの高い支持によって同社のブランド価値向上に寄与している模型、玩具、ゲーム、映像、音楽ソフトなどの「エンターテインメント」、家電、エンターテインメントに続く第3の柱として将来成長が期待される、エネルギービジネスも含めた「リフォーム」、需要が持続的に拡大しているモバイル端末の販売を中心とした「モバイル通信」、デジタルサポート・エアコンクリーニングを中心としたハウスクリーニング、ホームメンテナンス、リユース、レンタルなどで構成される「サポートビジネス」を指す。2030年のあるべき姿に向けて、主力事業である「家電」や「エンターテインメント」の事業規模を確保しつつ、成長事業と位置付ける「リフォーム」「モバイル通信」「サポートビジネス」の強化に取り組んでいる。「サポートビジネス」では製品レンタル、エアコンクリーニング、消耗品の定期便、設置・設定・工事のメンテナンスなどのサブスクリプションを意識したメニューを開発し、商品の所有から利用、メンテナンス、設置工事まで従来の物販では実現できなかったサービスの提供を目指す。また、「リフォーム」では2024年3月期から新たに取り扱いを開始したV2H(Vehicle to Homeの略称で、EVやPHEVのバッテリーに貯めている電力を自宅で使えるようにする機器)を家庭用蓄電池とともに重点商品の1つと位置付けて拡販を進める計画である。