a) ファンベース戦略 「ファンベース戦略」とは、アクティブ会員の維持拡大を通じた顧客との関係構築、信頼関係によりファン会員(年間来店日数3日以上かつ年間購入金額8万円以上)、コアファン会員(年間来店日数10日以上かつ年間購入金額30万円以上)の拡大を目指すもので、「JT-2025 経営計画」における最重要戦略である。同社におけるアクティブ会員は、1年間に1回以上同社で商品サービスを購入したことのある顧客のことで、2024年3月期の対象会員数は約500万人であった。今後、国内家電市場において人口減少による漸減傾向が予想されるなど市場環境や顧客ニーズが変化するなか、同社が創業以来「まごころサービス」の実践により磨いてきた接客力を武器に「ファンベース戦略」を実践することで、中長期的に安定した事業成長を実現する計画である。「ファン」「コアファン」になった顧客は長期にわたり同社を利用する可能性が高く、それにより顧客生涯価値の創出を実現し、5年後、10年後、さらにその先の事業成長につながると同社では考えている。同社にとって「ファンベース戦略」は経営の根幹にある考え方であり、「JT-2025 経営計画」期間中にとどまらず、その先も継続して実践する考えである。
b) ドミナント戦略 同社の「ドミナント戦略」は、創業以来蓄積した知見やノウハウを最大限活用し、同社の強みが生かせる領域(商圏、商品、サービスなど)に特化し、物流、サービスインフラ体制も含めた経営資源を集中的に投下する差別化戦略である。関西・東海・関東・北信越を重点エリアと位置づけリアル店舗網を構築し、新規出店に頼るのではなく、既存店のスクラップアンドビルドも含めた1店舗当たりの販売力強化に重点を置いた取り組みである。同社は各店舗0~5km圏のシェアをすべて把握しており、エリアを面で見るのではなく、商圏を細分化し、将来の収益拡大が見込めるエリアに絞り込んで出店を行ってきた。そこにECが加わることでリアル店舗がカバーできないエリアのフォローも可能となり、シナジー効果を最大限に発揮できるとみている。また新規出店に依存しないことで、設備投資や人件費、店舗運営コストなども制御できる。一般的なドミナント戦略はある特定のエリアを絞り込んで、集中的新規出店による市場占有率向上を目指すもので、エリア全体を「面」として捉えた考え方であり、同社のドミナント戦略とは異なる。
c) リアル店舗とECのチャネル別戦略 リアル店舗の売上構成比は2025年3月期第2四半期で82.3%であった。リアル店舗の事業を成長させるためには、熟練した販売員と一定数の販売員の配置が必要であり、店舗数の拡大ではなく、質の向上による既存店の売上・収益改善を目指している。そのため、同社ではICTを駆使した効率化投資をスピードアップさせる考えだ。また、同社は店舗営業の長い歴史の中で配送、設置、工事など強いインフラを構築しており、顧客の要望に対して最適な提案ができる接客力にも強みを持つ。今後、「ファンベース戦略」に基づき、個人ステータスに応じた特典を付与する「新ロイヤルティプログラム」の導入により、ファン会員、コアファン会員の新規創造、1人当たり顧客生涯価値の拡大を狙う考えだ。顧客満足度の向上のため、高品質なサービスやサポート体制の提供を続けながら、タッチパネルによる商品選択やオンライン接客、セルフレジ、接客支援システムの導入など、ICTを駆使した新たなサービスも加速させる。それに加え、従業員の専門資格取得の後押し、社内教育体制の強化による販売力・提案力・接遇力の強化も図る。
d) 5カテゴリ別戦略 同社が顧客に価値を提供する5カテゴリとは、主力事業である「家電」、高いシェアを誇り、ホビーユーザーからの高い支持によって同社のブランド価値向上に寄与している模型、玩具、ゲーム、映像、音楽ソフトなどの「エンターテインメント」、家電、エンターテインメントに続く第3の柱として将来成長が期待される、エネルギービジネスも含めた「リフォーム」、需要が持続的に拡大しているモバイル端末の販売を中心とした「モバイル通信」、デジタルサポート・エアコンクリーニングを中心としたハウスクリーニング、ホームメンテナンス、リユース、レンタルなどで構成される「サポートビジネス」を指す。2030年のあるべき姿に向けて、主力事業である「家電」や「エンターテインメント」の事業規模を確保しつつ、成長事業と位置づける「リフォーム」「モバイル通信」「サポートビジネス」の強化に取り組んでいる。「サポートビジネス」では製品レンタル、エアコンクリーニング、消耗品の定期便、設置・設定・工事のメンテナンスなどのサブスクリプションを意識したメニューを開発し、商品の所有から利用、メンテナンス、設置工事まで従来の物販では実現できなかったサービス提供を目指す。また、「リフォーム」では2024年3月期から新たに取り扱いを開始したV2H(Vehecle to Homeの略称で、EVやPHEVのバッテリーに貯めている電力を自宅で使えるようにする機器)を家庭用蓄電池とともに重点商品のひとつと位置付けて拡販を進める計画である。