(2) 市場見通し メガソーラー発電所の普及により、クリーンエネルギーの昼間の電力供給量が増加した一方で、需給面から廃棄されるケースも目立ってきており、発電した電力を一旦蓄えて夜間に利用可能とする大型蓄電池の必要性が国内外で急速に高まっている。同社提供の資料に掲載されている「IEA World Energy Outlook 2022」によると、世界の定置式蓄電容量の予測について、最も保守的な数値(各国の表明ベース)として、2021年の27GWhから2030年に10倍の270GWh、2050年に48倍の1,296GWhに拡大するとの見方が示されており、このなかの一定割合をVRFBシステムが占めるものと予想される。特に、再生可能エネルギー市場で世界トップの中国では、2022年6月に国家エネルギー管理総局がリチウムイオン電池とNaS(ナトリウム硫黄)電池に関して発火リスクがあるため、6MWh以上の大型蓄電システムを構築する場合には消火設備等の設置を義務付ける旨の書簡を発行したこともあり、安全性の高いVRFBに対する注目度が高まり、投資も活発化している。また、欧米やオーストラリアでもVRFBを使った大型蓄電システムのプロジェクトが動き始めている。
a) バナジウムの安定的な調達力 バナジウムの主要原産国は南アフリカ、中国、ロシア、米国の4ヶ国で9割超を占めている。用途としては製鋼添加剤向け(強度・耐熱性向上)が8割以上を占めているが、化学・エレクトロニクス業界向けでも幅広く利用されている。VRFB電解液用としては、五酸化バナジウムが一般的に用いられるが、市況変動により調達コストのコントロールが非常に難しいことが課題であった。こうした市況変動リスクを軽減するため、LEシステムでは火力発電所やプラント施設等から排出される廃棄物(残渣)からバナジウムを回収する多種の技術を保有しており、国内外の大手石油会社や鉄鋼メーカーのほか南アフリカの大手鉱山会社とも提携して、安定的に調達できる体制を確立することを目指している。
b) コスト競争力 一般的な電解液の製造フローとしては、五酸化バナジウムを仕入れて、溶解・濾過、電解還元工程を経て3.5酸化バナジウムにし、電解液としている。これに対して、同社では五酸化バナジウムを精製するまでの中間生成物であるメタバナジン酸アンモニウム(以下、AMV)から直接電解液を製造する技術を確立している。AMVは相対価格交渉であり五酸化バナジウムよりも安価に調達できるほか、溶解時間が5分の1と短いため電気代が半分以下に低減できること、また他社と比較して高い液面接触面積を持つ還元装置を利用することなどから、電解液の製造コストは他社比較で50%程度になると同社では試算している。VRFBのコストに占める電解液製造の比率は約35%と高いため、システム全体の低コスト化につながる技術として注目される。また、同社調べによれば電解液に含まれる不純物の成分も他社品より少なく品質が高いことも強みとなる。不純物が少ないほど長期運用には適していると見られているためだ。加えて、鉛フリーやアンチモンフリーの技術も確立しており、環境規制にも対応済みだ。
c) 総合技術力 LEシステムは、国内で30年以上の間、VRFBに関わる技術開発に携わってきた人材を技術顧問団として有していることや、電解液の研究開発を続けるなかで国内外のセルメーカーと開発レベルでネットワークを構築済みであること、かつ、独自でセル開発も可能なVRFB設計技術を有しており最適なVRFBシステムの提案が可能な点が強みである。特許戦略の面においても、バナジウムの回収技術や電解液製造プロセス、VRFBシステムの設計などで特許を有している(14件の特許出願、うち5件取得済み)。