*18:17JST 【マザーズ市場の投資戦略2023~新興市場の回顧と今後見通し~vol.2】2023年の相場見通し 2023年2月15日にYouTubeチャンネル「FISCO TV」で配信された「マザーズ市場の投資戦略2023~新興市場の回顧と今後見通し~」です。マザーズ先物の活用メリットを、新興市場の昨年の振り返りと今後の見通しを、フィスコマーケットレポーター高井ひろえが紹介、3回に分けて配信します。

さて、ここからは2023年の相場見通しについて解説していきたいと思います。まず、現在の市場が抱いている今年のポジティブシナリオと、次にそれが外れる場合のリスクシナリオについて、2つに分けて解説していきたいと思います。まず、ポジティブシナリオですが、前提として、アメリカではインフレがピークアウトする一方、程度の差はあれど、ほぼ全ての市場関係者がアメリカ経済の景気後退入りは避けられないと予想しています。そして、このインフレピークアウトと景気後退を理由に、FRBの利上げは3月か5月に停止した後、年後半には利下げにまで転じると予想されています。このFRBの利下げ転換をもってして、景気が底入れし、株式市場も年半ばころには底打ちするとみられています。

一方、リスクシナリオは予想以上にインフレがくすぶることに加えて、景気後退もさほど深刻なものにはならず、FRBが利下げに転じないというパターンです。この場合、FRBが高水準の金利を据え置くことが必要以上の引き締めにつながり、結果として、浅く済んだはずの景気後退が深刻化してしまうというリスクが高まります。この場合、株式市場は年後半にかけても低迷が長期化する恐れがあります。

それでは、それぞれのシナリオの根拠となる部分についてみていきましょう。まず、ポジティブシナリオが前提としているFRBの利下げについての根拠ですが、一つはアメリカのインフレピークアウトが理由として挙げられます。景気後退を織り込む形で、一時急騰していたWTI原油先物価格はロシアのウクライナ侵攻後の上昇分をすでに全て吐き出しています。

また、ロシアへのエネルギー依存度が高い欧州で大問題となっていた天然ガス価格の急騰も、幸運にも予想外の暖冬により、貯蔵した在庫の多くが消費されずに残ったことで、すでに沈静化しました。

さらに、新型コロナショックによるサプライチェーンの混乱により、一時急騰していたコンテナ運賃指数も元の水準にまで戻りました。

こうした背景から、アメリカの消費者物価指数、CPIも、モノ・財を中心にすでに大きくピークアウトしています。一方、こちらのグラフからも分かるように、青色のサービスに関するインフレはまだ伸びが鈍化していません。これはサービス分野の構成要素として最も占める割合の高い赤色の住居費、つまり家賃などの価格が下がっていないことが影響しています。しかし、この住居費のピークアウトも時間の問題と考えられています。

というのも次のグラフを見ていただくとお分かりいただけるかと思います。こちらは、CPIコアサービスの最大構成要素である住居費と、住居費に1年ほど先行する傾向のある住宅価格の伸びを示したものです。このグラフから見て取れるように、住宅価格はすでに昨年の4月からピークアウトしています。つまり、そこから約1年が経つ今年の4月頃には住居費もピークアウトし、インフレが根強く残っているCPIのサービス分野も沈静化していくと考えられます。

また、ポジティブシナリオを主張する向きがFRBの利下げ転換の理由として挙げるもう一つの理由が景気後退、リセッションです。アメリカの供給管理協会、ISMが発表する製造業景気指数では昨年11月からすでに景況感の縮小を意味する50割れが始まっています。また、サービス分野は底堅いと言われていましたが、サービス版のISM景気指数も昨年12月には急低下して、一気に50を割り込んできています。アメリカを襲った大寒波の影響など一過性の要因にもとづく可能性もありますが、アメリカの小売売上高も前月比でマイナスの状態が続いていることも考慮すると、サービス分野でも景気の冷え込みが始まったと考えるのが適切かもしれません。つまり、こうしたアメリカ経済の景気後退の進展を受けて、FRBは今年後半には利下げ転換を強いられると考えている投資家が多いということです。

一方、それでは、リスクシナリオの背景にあるFRBの利下げが年内には起こらないと考える背景は何なのでしょうか。次にそれを見ていきましょう。理由の一つは、サービス分野のインフレの一因にもなっているアメリカの労働市場の逼迫が長期化する可能性です。こちらはアメリカの雇用統計で示される平均時給の伸びを示したものですが、グラフを見る限り、伸びはピークアウトし、低下傾向に転じつつあるように見えます。

しかし、次にこちらのアメリカの労働市場の状況を表したグラフを見てください。ここから分かるように、新規失業保険申請件数は大きく低下した状態が続いています。また、失業率も新型コロナパンデミック以前の低水準を維持しており、統計上は依然としてまったく失業者が増えていないことが窺えます。さらに、求人件数も足元でやや低下傾向にありますが、依然として新型コロナ前を大幅に上回る高水準を維持しています。これらを見る限り、アメリの労働市場の逼迫はまだまだ解消されたとはいえません。この労働市場の逼迫が解消されなければ、もしくは解消されつつも、そのスピードが非常に緩やかなものにとどまるのであれば、賃金インフレの早期の沈静化は期待しづらく、FRBも利下げに転じることはできない、というのがリスクシナリオの一つの根拠です。

リスクシナリオが年内の利上げがないと考えるもう一つの理由を見ていきましょう。こちらはFRBの政策金利とアメリカの消費者物価指数の伸びを表したチャートです。左のピンク色の丸で囲った部分から分かるように、1970年台後半にかけては両者のチャートが急速に右肩上がりになっています。これは中東諸国発のオイルショックが引き起こした当時のインフレと、その時のFRBが利上げでこれを沈静化しようと戦った様子を表しています。

また、さらによく見ると、両者は一本調子で上昇しているわけではなく、沈静化を挟みつつ再び急騰するといった展開を何度か繰り返しています。これは当時のFRB議長が景気後退を恐れるがあまり、インフレ指標がピークを打ったと見えた途端に即座に利下げに転じ、そうした拙速な利下げへの転換が再びインフレを加速させ、結局、前回を上回る以上の利上げに追い込まれるという失敗を起こしてしまったことを表しています。

現在のFRB議長であるパウエル氏も、この当時の過ちの危険性に度々言及しており、早期の利下げ転換には非常に慎重な姿勢を見せています。また、年明け以降、物価指標の沈静化を背景に、FRB高官から利上げペースを減速させることを支持する発言が増えていますが、年内の利下げについては誰一人として支持していません。こうした背景が、年内の利上げがないとするリスクシナリオの二つ目の根拠になります。

それでは、こうした二つのシナリオが想定される中、投資家はどういった姿勢で臨めばよいのでしょうか。結論としては、今年は景気敏感株や大型株は厳しい一方、景気などとの連動性が低い新興株は相対的に優位になるのではないかと考えています。景気敏感株や大型株が手掛けづらいと考える理由は2つあります。今すでに迎えつつある景気後退が今後どれ程までに深いものになるのか、また、それを受けてFRBが本当に年内に利下げに転じるのかどうか、こういった景気や金融政策に関する不透明感が大きいことが一つ挙げられます。

また、今年の4月からは日本銀行の総裁が変わり、新体制になります。昨年12月の黒田日銀総裁が発表したサプライズな政策修正は次の新体制に向けた地ならしなのではないかとも言われており、今年はFRBだけでなく日銀の金融政策の動向も不透明要素となってきます。日米の実質金利の絶対的な差や日本の貿易赤字の継続性から、円高リスクはそこまで高くないと指摘する声も多いですが、日銀の政策修正への思惑がくすぶる限り、今年は円高への警戒感もくすぶることになるでしょう。こうした景気と為替の不透明感が景気敏感株などを手掛けにくくすると考えています。

一方、景気と為替の不透明感が嫌気される中、これら要素との連動性が低いのが新興株です。サービスや情報・通信といった内需系セクターが中心であることが一つ理由として挙げられます。景気動向が不透明な場合、機関投資家は売買を手控えがちになりますが、大型株に比べて流動性が小さい新興株の場合は、そもそも機関投資家の投資割合がさほど大きくなく、個人投資家が中心のため、景気動向の直接的な影響は相対的に小さいと考えられます。相場が一本調子で下がり続けるといった極端に悪い状況にならず、資金循環さえ滞らなければ、新興株は個人投資家の売買によって相対的に強い展開が見込めるといえるでしょう。

そのほか、新興株が相対的に優位と考える補足の理由を一つご紹介しておきます。こちらはアメリカの10年債利回りと10年物の期待インフレ率、そして名目利回りから期待インフレ率を差し引いた実質ベースでの10年債利回りを示したチャートです。昨年はインフレとFRBの急ピッチでの利上げを背景に実質金利が急上昇し、新興株の重しになりました。しかし、その実質金利も名目金利のピークアウトと共に徐々に鈍化してきています。景気後退を反映して、緑色の期待インフレ率も低下していましたが、期待インフレ率はコロナ前の2%前後の水準まで低下してきたことで、今後は低下が一服してくると予想されます。そうなると、名目金利の低下が素直に実質金利の低下につながることで、新興株の追い風になるでしょう。仮に実質金利がこれ以上大きく下がることがなかったとしても、昨年のような異例のハイペースでの金利上昇が止み、勢いが横ばいになるだけでも新興株のサポート要因になるといえます。

※原稿作成:フィスコアナリスト仲村幸浩


—マザーズ市場の投資戦略2023~新興市場の回顧と今後見通し~マザーズ先物の活用メリットと東証グロース市場の注目企業vol.3に続く—


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情報提供元: FISCO
記事名:「 【マザーズ市場の投資戦略2023~新興市場の回顧と今後見通し~vol.2】2023年の相場見通し