■業績動向

1. 2021年3月期の業績概要
早稲田アカデミー<4718>の2021年3月期の連結業績は、売上高で前期比3.4%増の25,453百万円、営業利益で同9.0%減の1,064百万円、経常利益で同7.3%減の1,077百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同31.5%減の529百万円と増収減益決算となったものの、当初会社計画(2020年7月発表)に対しては、売上高、各利益とも上回って着地した。コロナ禍においていち早く双方向Web授業を開始するなど、顧客ニーズに迅速に対応したことや、2021年春の難関校合格実績が好調だったこともあって、期末にかけて入塾生徒数の増加ペースが加速したことが上方修正要因となった。塾生の回復については、業界全体の動きよりも早く回復しており、同社の取り組んだ施策が顧客の支持を集めた証左となっている。

(1) コロナ禍におけるオンラインサービスの取り組み
コロナ禍で緊急事態宣言の発出に伴い学校が2020年4~5月と休校となるなかで、同社は学びを止めないため、いち早くオンライン対応に取り組んだ。3月にオンデマンド講座配信を開始し、4月上旬にはZoomを活用した双方向Web授業を開始した(早稲田アカデミー個別進学館は約1ヶ月休校)。また、6月以降も対面授業を再開するなかで、双方向Web授業を選択受講できるデュアル形式の指導サービスを開始し、顧客ニーズに対応した。対面授業を再開する際に、事前アンケートを実施した結果、5割強の塾生や保護者がWeb授業の継続を希望したためだ。同社の場合、1クラス15~20名程度のため、デュアル形式での授業も可能と判断し、現在もサービスを継続している。

また、ICTを活用した自宅学習支援ツールとして、各種模擬試験等を自宅で受験できる受験サポートアプリ「早稲田アカデミーEAST」を5月より提供開始した。EASTについては今後も記述式の添削課題や塾の宿題提出、質問対応等、利用範囲を拡大すべく機能の拡充を図っていく予定である。同アプリについては無料で提供し、競合塾との差別化戦略の1つとする考えだ。さらに、1回の認証(ログイン)を行うだけでオンデマンド授業映像の視聴や、家庭学習用Web教材の利用等、同社が提供するWebサービスを安全かつスムーズに利用するための機能「早稲田アカデミーOnline」サービスも開始しており、今後、さらなる機能の追加・拡充を予定している。このように顧客の希望に可能な限り応える取り組みや、ICTを活用した利便性の高いサービスを提供した結果、、顧客からの評価が高まり塾生数の早期回復につながったと考えられる。

(2) 学部別売上高と塾生数の動向
学部別の売上高と塾生数の動向を見ると、小学部は売上高で前期比7.9%増の13,999百万円、塾生数(期中平均、以下同様)で同3.7%増の21,591人といずれも増加した。学年別では全学年が堅調に推移し、なかでも受験コースの6年生の塾生数が8.5%増となり全体をけん引した格好となっている。生徒数の動きを四半期別にみると第1四半期こそ前年同期比で若干減少したものの、第2四半期以降は増加に転じており、第4四半期には前年同期比9.5%増となっている。生徒当たり単価が4%ほど上昇したが、これは学校が4~5月と休校となったことで、学習速度や受験準備が遅れることに対して不安を抱える生徒や保護者が増え、受験対策として夏期・冬期集中講座などの受講者数が増加したこと、また、6年生の構成比が上昇したことも一因となっている。

中学部は売上高で同1.6%増の9,576百万円、塾生数で同2.6%減の14,796人となった。小学部と比較すると塾生数の回復は鈍く、前年同期比で増加に転じたのは第4四半期に入ってからであった。高校部については売上高で同18.6%減の1,647百万円、塾生数で同16.7%減の2,582人となった。前述したとおり、拠点戦略として郊外の校舎を2020年3月期に3校舎整理したことが生徒数の減少につながっている。ただ、校舎の整理は一段落しており、2022年3月期以降は生徒数も増加に転じる見通しとなっている。

なお、2021年3月期の校舎数の変動については、6月に早稲田アカデミー個別進学館のFC校(大森校)を直営化したほか、2月に日吉校を開校している。なお、3月に綱島校、国研、大学受験部大宮校を閉校した。

(3) 費用の増減要因
2021年3月期の営業利益率は前期比0.6ポイント低下の4.2%となった。販管費率は同1.1ポイント低下したものの、売上原価率が同1.6ポイント上昇したことが要因となっている。売上原価の内訳を見ると、原材料費率が同2.6ポイント、労務費率が同0.3ポイントの上昇となった。原材料費率は主にオンライン英語授業の開始によるものとなっている。また、労務費率はサービス品質向上に向けた講師職、アシストスタッフの増員とインセンティブの増加によるものとなっている。アシストスタッフは学習指導や模試運営等を円滑に進めるためのサポート要員となっている。

また、販管費については労務費率が同0.7ポイント上昇したものの、広告宣伝費率が同1.4ポイント低下したほか、その他販管費率についても経費の抑制に取り組んだことで同0.4ポイント低下している。労務費率の上昇は本社社員の増員と合格実績伸長等によるインセンティブの増加が要因となっている。一方で、広告宣伝費率についてはコロナ禍で通常よりも広告出稿が抑えられたことや、効果的なWebプロモーションを実施したことで前期から大きく改善している。

なお、特別損失として98百万円を計上しているが、これは新型コロナウイルス感染防止のために休講した期間の賃借料等の固定費分となる。

(4) 子会社の業績動向
国内子会社の業績動向については、コロナ禍の影響で期首の集客に苦戦したほか、一時的な休校もあり、減収を余儀なくされたものの、いずれも年度予算は上回って推移した。海外子会社2社においても、コロナ禍の影響を受けたものの、ロンドン校、ニューヨーク校ともに、塾生数はそれぞれ順調に推移した。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 早稲アカ Research Memo(4):2021年3月期業績は塾生数が回復し、当初会社計画を上回って着地