■ケアネット<2150>の中長期の成長戦略

1. 医薬営業支援サービス
医薬営業支援サービス事業では、製薬業界におけるプロモーション案件の主軸が生活習慣病薬からスペシャリティ医薬品にシフトするなか、スペシャリティ医薬品領域でのサービスを拡充する方針を打ち出している。がん領域など専門性の高い分野において高品質な情報メディアを確立し、より多くの専門医を集めることで競合他社との差別化を打ち出す戦略だ。

製薬企業側でも、生活習慣病領域についてはMRによる人海戦術的な営業施策が有効だったが、スペシャリティ領域ではターゲットとなる医師が少なく、面談時間を取ることも難しいため、今まで以上のeディテーリング活用が重要になる。加えて、コロナ禍においてMRによる営業制限がかかっていることで、その潮流はさらに加速すると見られる。景況悪化のなかで製薬企業のでは販促費の削減が図られるなど一時的にネガティブな材料はあるものの、従来のプロモーション慣習が変化することに伴う市場拡大が長期的に続いており、前述した差別化戦略を推進することで確実に需要を取り込む計画となっている。

加えて同社は2020年9月、「データドリブンの事業開発」というコンセプトのもと、MDVと業務提携した。MDVは実患者数3,000万人を超えるDPCデータ※を含む診療データベースを保有しており、提携を受けて両社は診療データベースなどを融合・活用することで、製薬企業向けのDX事業やオンライン診療システム普及などの様々な事業開発を進める。具体的には、疾患別での医療機関・医師ターゲティングの精度向上、診療実態把握の精度向上などにより、治験の効率化やオンラインでの医師向けエンゲージメントを推進する。

同社は高品質な情報配信を背景とした長年にわたる医療関係者との信頼関係を構築しており、それを強みとして市場が急拡大するなかで競争優位を築いていく。

※ DPCデータとは、Diagnosis Procedure Combinationの略で、入院患者の性別・生年月日・身長/体重、傷病名・診療情報・手術情報などがまとめられたもの。


2. 医療コンテンツサービス
医療コンテンツサービスでは、幅広いニーズに応えるため販売方式やコンテンツの多様化を進める。販売方式については、「CareNeTV」で2018年11月よりプレミアムプラン(月額定額プラン)に加えてコンテンツごとに課金するPPV方式を導入し、今後販売対象を拡大する予定だ。またコンテンツの多様化では、VR技術を活用したコンテンツを様々な医療現場で活用する考えだ。従来は手術室における医療スタッフの動きや手技動画コンテンツのみだったが、今後は救急医療や在宅医療現場における医療スタッフの動きをVRで撮影し、高付加価値な教育コンテンツとして制作していくとしている。

医療コンテンツサービス事業が全体業績に占める比率は低いものの、高品質なコンテンツは従来同サービスの大きな強みとして機能しており、販売対象やコンテンツを広げることで成長ポテンシャルをさらに広げられると弊社は予想する。また、現在の医師会員数は18万人超であり、同社は国内の医師人口の7割である20万人を目先のマイルストーンとしている。20万人達成までは投資を進めるものの、達成後は投資を徐々に弱める見通しであり、収益性がさらに改善されていくと弊社は見ている。

3. 新規事業
同社はヘルスケア領域におけるスタートアップ企業との協業・連携も進めている。2019年3月に資本提携した再生医療製品を開発するセルジェンテック(株)やゲノム編集技術を開発するモダリス<4883>(旧 エディジーン(株))、2020年2月に出資した椎間板組織の再生医療に関する米国のスタートアップ企業であるDiscGenics, Inc.などに対して、臨床開発から上市後のプロモーションに至るまで様々な支援サービスを行っていく予定としている。

ただ、新規出資については、市場環境も不透明なことから当面は手控える意向で、既存の出資企業への支援を中心に取り組んでいく方針だ。出資先のうち、モダリスについては2020年8月に東証マザーズ市場に上場した。ロックアップ期間は終了しており、株価状況次第では保有株(10万株)の一部を売却すると弊社は見ている。

また、同社は「データドリブンの事業開発」として、2020年11月、東京海上ホールディングスと資本業務提携を締結した。データとテクノロジーを活用した新たな保険商品とヘルスケアサービスの開発が主な目的である。なお、資本提携の部分については東京海上ホールディングスの子会社である東京海上日動火災保険(株)がケアネットの株式を保有する予定だ。東京海上ホールディングス系という大資本が参加したことで、業務面・財務面でも選択肢が広がり、今後の事業展開も加速すると弊社は考える。また、MDVとの業務提携も含め、同社はデータ資産の活用を積極的に進めており、新たな収益柱の誕生・成長についても今後の注目点になると弊社は考える。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 石津大希)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 ケアネット Research Memo(5):提携を通じてデータドリブンの事業開発を推進。成長基盤の構築を進める