■今後の見通し

2. 重点施策の進捗状況
(1) 「ABCIR+S」戦略
TOKAIホールディングス<3167>は「ABCIR+S」戦略の基盤となるDMP「D-sapiens」の運用を2021年3月期より本格的に開始している。第1四半期よりアクア事業にて、「D-sapiens」に蓄積した顧客の行動履歴(Web履歴や取引履歴、問い合わせ等)などをAIで分析することによって解約予兆パターンを抽出し、抽出群の顧客に対して特典付きアンケートをDMで送るなどの施策を実施した結果、何も施策を打たなかった群に対して、解約率が2割低下したことを確認した。

こうした結果を受け、第3四半期以降はLPガスや情報通信、CATVなどその他の事業においても、「D-sapiens」とTCL会員サービスを組み合わせた数十種類のクロスセル・リテンション施策を本格的に実践していく計画となっている。同施策の本格運用によって、解約率の低減やクロスセル率の上昇、LTVの最大化を今まで以上に効率的に実現していくことが可能になると見られる。特に、クロスセル率の水準を引き上げていくことができれば、顧客当たり売上高の上昇と顧客獲得維持コストの低減によって収益性の一段の向上が可能となるだけに期待は大きい。クロスセル率は2020年3月末18.8%から2020年9月末は19.5%と緩やかに上昇しており、2021年3月期末は20.0%の水準を目標としている。

また、LPガス事業において2021年3月期から新基幹システムを導入、運用を開始しており、業務の効率化や働き方改革に取り組んでいる。なかでも注目されるのが、LPWA端末を活用した自動検針システムの構築となる。同端末を顧客先に設置し、無線通信でガスボンベの使用量データを自動収集し、配送タイミングの最適化や配送ルートの効率化、並びに間接部門の業務効率化につなげていく考えだ。また、「D-sapiens」とも連携することで、顧客の行動パターンを分析し、新サービスの提案にもつなげていく。同社では今後、5年間かけて自動検針化を進めていく計画となっている。同システムの構築を含めて新基幹システムへの投資額は数十億円を予定している。自動検針化によってLPガス事業の収益性を向上させ、市場シェアの更なる拡大につなげていく。

(2) M&A戦略
2018年3月期以降のM&A戦略の成果として、13案件を実施し、12,989百万円の投資によって、売上高で8,528百万円、営業利益で618百万円、顧客件数で350千件を上積みしている。また、現在も20件以上、ディール総額で1,000億円以上となるM&A案件の検討を進めている状況にある。直近では2020年11月に静岡県東部を中心にビルメンテナンス事業を展開している(株)イノウエテクニカの全株式を取得し、子会社化したことを発表している。業績への影響は軽微だが、今後、同社グループの組織力を最大限活用し、営業エリアを静岡県全域から全国へと展開しながら事業規模の拡大を図っていく方針となっている。

(3) 新規事業の取り組み
同社は経営ビジョンとして、人々の暮らしにおける「安心・安全」「便利・快適」「喜び・生きがい」を提供する「Total Life Concierge(TLC:暮らしの総合サービス)構想」を掲げており、その具現化のための新規事業創出にも取り組んでいる。

具体的には、ヘルスケアサービスの事業化を検討している。健康を基礎に今後の人生がより豊かで生きがいのあるものにしていくための、がんや生活習慣病等の予防、あるいは健康増進を目的としたサービスを想定している。これらのサービスは単独ではなく、ヘルスケア分野で実績のある事業者と連携して、サービス内容等のビジネスモデルを構築していく方針となっている。8月から9月にかけて実施したマーケティング調査では良好な感触を得ているようで、今後の動向が注目される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 TOKAI Research Memo(5):「D-sapiens」を活用したデジタルマーケティングの本格運用を開始