■要約

ワコム<6727>は、デジタルペンとインクの事業領域で、技術に基づいた顧客価値の創造を目指すグローバルリーダーである。映画制作や工業デザインのスタジオで働くデザイナー、アニメーターなどプロのクリエイターからの支持により高いブランド力とシェアを誇る。自社ブランドで「ペンタブレット製品」等を販売する「ブランド製品事業」と、スマートフォンやタブレットなど完成品メーカー向けに独自のデジタルペン技術をコンポーネントとして供給する「テクノロジーソリューション事業」の2セグメントで事業を展開している。

1. 2020年3月期の業績
2020年3月期の連結業績は、売上高が前期比1.0%減の88,580百万円、営業利益が同34.1%増の5,567百万円と売上高は僅かに減少したものの、利益面では大幅な営業増益を実現した。「ブランド製品事業」が「ペンタブレット製品」を中心に減収となった一方、「テクノロジーソリューション事業」はスマートフォン向けを中心に順調に伸び、その結果、売上高全体ではわずかな減収となった。ただ、「ブランド製品事業」の中身を見ると、注力する「ディスプレイ製品」がエントリーモデルを中心に大きく伸びており、その点は評価すべきポイントである。利益面では、米国の対中輸入関税引上げや為替相場(円高)の影響などが利益を圧迫したものの、活動方針として取り組んできた販管費の最適化が奏功し、大幅な営業増益を実現することができた。

2.中期経営計画「Wacom Chapter 2」とその進捗
同社は2019年3月期から2022年3月期までの中期経営計画「Wacom Chapter 2」を推進している。「テクノロジー・リーダーシップ・カンパニー」として原点に立ち返り、ペンやインクのデジタル技術で常に市場の主導権を握りながら、顧客志向の価値創出により持続的な成長を目指す方向性である。また、その実現のために、1)テクノロジー・リーダーシップの推進、2)アイランド(島事業=ブランド事業)&オーシャン(海事業=テクノロジー事業)による緊密な連携、3)大胆な選択と集中、の3つの全社戦略に取り組んでいる。新型コロナウイルス感染拡大(以下、コロナ禍)等の影響により、定量面では進捗に遅れが見られるものの、定性面ではパートナーとの技術連携や独自のデジタルペン技術の事実上の標準化、製品ポートフォリオの組み替え、販管費の最適化など、事業モデルの更なる進化や収益性向上に向けて一定の成果を残した。

3. 2021年3月期の業績見通し
2021年3月期の連結業績予想について同社は、コロナ禍の影響により、経済活動の回復度合いが極めて不透明であることを踏まえ、レンジ形式による業績予想で通期のみ開示している。具体的には、売上高を89,000百万円(前期比0.5%増)~91,500百万円(同3.3%増)、営業利益を5,600百万円(前期比0.6%増)~6,500百万円(同16.8%増)とし、上限では増収増益を見込むとともに、下限では最低ラインとして当期並みの業績確保を見込んでいる。売上高は、「ブランド製品事業」及び「テクノロジーソリューション事業」ともに着実に伸びる見通しである。「ブランド製品事業」については、「ディスプレイ製品」のエントリーモデル(特に初心者向け)を中心に拡販する方針である。また、「テクノロジーソリューション事業」については、教育向けなど新たな事業機会の獲得にも取り組む。利益面では、将来に向けた積極的な研究開発投資を予定しているものの、製品ミックスの改善や継続的な販管費の最適化により営業増益を見込んでいる。

■Key Points
・2020年3月期は売上高がコロナ禍等の影響によりわずかに減収となったものの、販管費の最適化等により大幅な営業増益を実現
・「ペンタブレット製品」の減収は続くも、注力する「ディスプレイ製品」エントリーモデルが順調に伸長。「テクノロジーソリューション事業」もスマートフォン向けが好調に推移
・2021年3月期の業績予想については、コロナ禍の影響が不透明であることからレンジ形式での開示。上限では増収増益を見込むとともに、下限では最低ラインとして当期並みの業績確保を目指す

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 ワコム Research Memo(1):前期決算は大幅な営業増益を実現。2021年3月期はレンジ上限で増収増益を見込む