■主要開発パイプラインの概要と進捗状況

2. エミクススタト塩酸塩(スターガルト病)
スターガルト病は遺伝性の若年性黄斑変性で有効な治療法が確立していない稀少疾患の1つである。8千人から1万人に1人の割合で発症し、患者数は日米欧で15万人弱、米国だけで見ると3.2~4万人と推計されている※。小児期から青年期における視力低下や色覚障害等が主な症状として挙げられ、大半の患者が視力0.1以下に低下すると言われている。

※Market Scope,「Retinal Pharma & Biologics Market」「UN World Population Prospects 2015」をもとに、窪田製薬ホールディングス<4596>が推計。


発症原因は、網膜内にあるABCA4遺伝子の突然変異によるものと考えられている。ABCA4遺伝子は光を感じる働きを司る「視覚サイクル」によって生じる有害なリポフスチン(以下、A2E)を処理する役割を果たすが、本遺伝子が突然変異により本来の役割を果たさなくなることで網膜内にA2Eが過剰に蓄積し、視細胞が損傷を受けることで視機能障害が徐々に進行していくメカニズムとなる。有効な治療法がいまだに確立されていないアンメット・メディカルニーズとして、治療薬の開発が望まれている疾患である。

エミクススタト塩酸塩は動物モデルを用いた前臨床試験において、このA2Eの蓄積を抑制する効果が確認されている。エミクススタト塩酸塩が「視覚サイクル」において重要な役割を果たすRPE65と呼ばれる酵素を選択的に阻害し、視覚サイクルによって生じる老廃物の蓄積を軽減する薬理作用があるためと考えられる。エミクススタト塩酸塩の投与によりスターガルト病の症状の進行を抑制する効果が期待されている。

2017年1月より米国で実施した第2相前期臨床試験(22症例)ではエミクススタト投与1ヶ月後に、網膜電図を用いて点滅光に対する網膜の電気的応答の変化を検証した。杆体(かんたい)の反応は、網膜電図ではb波で示される。エミクススタトは視覚サイクルにおいて重要な役割を果たす酵素RPE65を阻害して杆体を休ませることで、視覚サイクルを抑制する働きが確認されている。このことから、本試験ではスターガルト病患者に対して、杆体b波の振幅が投与1ヶ月後にどれくらいの割合で抑制されるかを主要評価項目に設定した。試験結果によれば、用量依存的で最大90%を超える抑制効果が見られ、また、投与用量における安全性及び忍容性も確認され、主要評価項目を達成している。

2018年11月より開始している第3相臨床試験では、プラセボとの二重盲検比較試験を行い、1日1回、10mgの経口投与を24ヶ月間実施する。主要評価項目は、プラセボ群に対する黄斑部の萎縮進行の抑制効果を検証するというもの。また、副次的評価項目として最良矯正視力のスコアや読速度などの視機能の変化も見る。スターガルド病は疾患の原因が特定遺伝子の突然変異によるものと明確であることから、同社では比較的薬効証明がされやすいと見ている。エミクススタト塩酸塩は、これまでの臨床試験においても順調で高い薬効が見られることから、弊社では開発が成功する可能性が高まっていると見ている。なお、競合薬の開発状況としては、サノフィ(フランス)が第1/2相臨床試験を行っている段階にある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 窪田製薬HD Research Memo(5):エミクススタト塩酸塩は順調に第3相臨床試験へ。開発成功への期待高まる