■シンバイオ製薬<4582>の会社概要

2. 開発パイプラインの動向
(1) 「トレアキシン(R)」(一般名:ベンダムスチン塩酸塩)
「トレアキシン(R)」は悪性リンパ腫向けの抗がん剤となる。悪性リンパ腫とは白血球の一種であるリンパ球ががん化(腫瘍化)し、リンパ節や臓器にかたまり(腫瘤)ができる病気で、全身に分布するリンパ節やリンパ節以外の臓器(胃、腸、甲状腺、脊髄、肺、肝臓、皮膚、眼など)からも発生する。血液がんの中でも最も多い疾患で、国内における年間発生数は10万人に約10人と言われている。悪性リンパ腫は主にホジキンリンパ腫(HL)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に分かれており、日本では約90%がNHLで占められており、症状の進行速度によって低悪性度、中悪性度、高悪性度に分類され、様々な病型がある。

これらの中で現在、販売承認を取得しているのは再発・難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫(NHL)及びマントル細胞リンパ腫(MCL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、未治療(初回治療)の低悪性度NHL/MCLとなっている。特に2016年に未治療の低悪性度NHL/MCLの販売承認を取得したことにより同分野での使用が広がりを見せ始め、2018年7月に日本血液学会の診療ガイドラインに「トレアキシン(R)」と「リツキサン(R)」の併用療法(BR療法)が標準治療法として推奨されたことで、名実ともに標準療法としてその地位を確立しつつある。未治療(初回治療)の低悪性度NHL分野では従来、R-CHOP療法※が標準療法として利用されてきたが、2017年第4四半期(10月−12月)の市場浸透率で見るとBR療法が逆転しており、2019年第2四半期(4月−6月)には全体の55%をBR療法で占めるまでになっている。同社はBR療法の薬効の高さから、未治療領域での市場浸透率は2020年に70%近くまで上昇し、少なくとも75%程度まで引き上げていくことは可能と見ている。

※R-CHOP療法:リツキサン(R)とほか4剤を組み合わせた多剤併用療法


また、開発パイプラインとしては現在、5本が進んでいる。このうち、凍結乾燥注射剤タイプの「トレアキシン(R)」の適応拡大として、再発・難治性DLBCLを適応症とした第3相臨床試験については、2019年9月にすべての被験者の観察期間が完了し、2019年11月5日付で主要評価項目である奏効率において期待奏効率を上回る良好な結果が得られたことを発表している。今後、2020年第2四半期中の承認申請に向けて準備を進めていく予定で、順調に進めば2021年後半の承認及び販売開始が予想される。再発・難治性 DLBCLが適応対象に加われば、「トレアキシン(R)」の潜在市場規模は従来の2倍超に拡大することになる。再発・難治性DLBCLの患者数は、既存適応症3分野合計で1万人弱であるのに対して、その1.5倍の患者数となるためだ。患者団体並びに関係学会からもBR療法を早期に使えるようにしてほしいとの要望書が出ており、販売開始と同時に再発・難治性DLBCL領域でも「トレアキシン(R)」の急速な浸透が見込まれる。

「トレアキシン(R)」の液剤タイプであるRTD製剤に関しては、2019年9月に承認申請を行い現在は審査中となっている。順調に進めば2020年第4四半期に承認され、2021年第1四半期にも販売が開始される見込みだ。また、RI製剤については2018年11月に安全性の確認を主目的とした臨床試験を開始しており(予定症例数36例)、2019年10月末時点で26症例の登録が完了している。順調に進めば、2020年第1四半期に臨床試験が完了し、早期に承認申請を行い、2022年上期の販売開始が予想される。RTD/RI製剤ともに適応症については既に承認済みのすべての適応症のほか、再発・難治性のDLBCLも対象に含まれる。

RTD/RI製剤は米国市場で既にテバ(米)が「BENDEKA(R)」として販売しており、2017年時点でベンダムスチン市場の97%のシェアを獲得するなど、既にほとんどが液剤タイプに切り替わっている。溶解作業が不要なほか、RI製剤については投与時間も短く患者負担も大幅に軽減されるためで、日本でも早期の販売承認を望む声は強い。なお、既存の凍結乾燥注射剤タイプについては、国内の独占販売期間が2020年で終了するため、後発医薬品が開発される可能性があるが、RTD/RI製剤が上市されれば機能面での差が大きいことから、事実上、独占販売期間を2031年まで伸ばすことが可能となる。また、RTD/RI製剤が上市された場合の薬価は従来品と同水準となるが、仕入先がイーグル・ファーマシューティカルズに変わるため、利益率に関しては既存品よりも良化する可能性が高いと弊社では見ている。

悪性リンパ腫向けでは、2019年5月に薬価収載された国内初のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法「キムリア(R)点滴静注」の前処置としての使用が可能となったほか、現在も免疫チェックポイント阻害剤の開発において、併用療法の薬剤として使用されており、将来的にも標準療法としての「トレアキシン(R)」の位置付けは強固なものになりつつあると言える。

そのほか「トレアキシン(R)」の経口剤(開発コード「SyB C-0501」)についても、進行性固形がんを適応症とした第1相臨床試験を2018年1月より実施しており、忍容性・安全性の検討を行った上で、がん腫を絞り込んでいく予定にしている。また、免疫系疾患への可能性を探るべく慶應義塾大学と共同研究契約を締結し、自己免疫疾患の中でも極めてニーズが高い全身性エリテマトーデス(SLE)※を適応症とした前臨床試験を2018年7月より実施している。今後、試験結果を評価した上で、臨床試験の実施も含めて今後の方針を決定する予定にしている。

※自分の免疫システムが誤って自分の正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫性疾患の1つで、全身の様々な臓器に炎症や組織障害が生じる病気で難病に指定されている。日本の患者数は6~10万人。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 シンバイオ製薬 Research Memo(3):「トレアキシン(R)」は悪性リンパ腫の標準療法として適応拡大が進展