■窪田製薬ホールディングス<4596>の主要開発パイプラインの概要と進捗状況

2. 遠隔医療モニタリングデバイス(網膜疾患)
遠隔医療モニタリングデバイスとなる「PBOS」は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄班浮腫等の網膜疾患の患者の網膜の厚みを患者自身で測定し、撮影した画像をインターネット経由で担当医師に送り、治療の必要性の有無を診断するシステムとなる。まもなく量産型試作機が完成する見込みとなっており、量産型試作機で臨床試験結果との再現性を確認したのちに米国で承認申請を行い、2020年内の量産体制確立と販売開始を目指している。

「PBOS」は携帯型の超小型機(重量500~700g)のため、患者はどこにいても網膜の状態を測定でき、医師の診断を仰ぐことが可能となる。診断の結果、治療の必要性が認められた場合のみ、病院で改めてOCTによる検査を行って、治療することになる。特に、患者数が多い加齢黄斑変性に関しては、患者によって治療に要する期間が異なるため(1ヶ月~数ヶ月おきに治療薬の投与(抗VEGF薬の眼球注射)が必要)、網膜の状態をタイムリーに観察することが症状の悪化を防ぐために重要であるが、患者の経済的・身体的な負担があったり、自覚症状がない場合もあり、適切なタイミングでの通院検査と治療が行えず、結果的に症状を悪化させてしまうケースが多いことが問題となっていた。

「PBOS」を使うことで患者自身が在宅で網膜の状態を簡単に測定し、遠隔診断できるシステムが確立されれば、適切なタイミングでの治療を受けることが可能となり、症状を悪化させる患者が大幅に減少する効果が期待できる。また、製薬企業にとっても適切に治療を受ける患者が増えることで、治療薬の販売が従来よりも増加する可能性があるほか、医者にとっても通院患者に占める治療患者の比率が上昇する(診断のみで治療が不要な患者が減少する)ため収益の改善につながり、すべての関係者にとってメリットが享受できるシステムと言える。このため、米国での販売承認が下りれば革新的な遠隔診断ソリューションとして普及・拡大に向かう可能性は高いと弊社では見ている。

今後はビジネスモデルをどのように設定するかが課題で、現在検討を重ねている段階にある。国によって医療行政や保険の仕組みが異なるためで、それぞれの地域に合わせた販売手法を展開していく必要がある。現在開発を進めている米国では、患者の初期負担が軽減されるレンタルサービスとして、毎月利用料を徴収するスタイルになる可能性が高い。保険適用されれば患者の負担も大幅に軽減できるため普及も進みやすい。同社にとっては、販売開始当初はコスト負担になるものの、一定期間を超えれば利益化するため、ストック型のビジネスモデルとして安定した収益源に育つ可能性がある。また、加齢黄斑変性などの網膜疾患は経過観察が重要であることや根治療薬がないことから、一度「PBOS」を使い始めると、失明しない限りは継続して使用される可能性が高いことも魅力の1つと言える。

販売方法については、眼科医とのネットワークを持つ医療機器メーカーや卸商社、製薬企業などを対象に販売パートナー契約を締結し、効率的に普及拡大を進めていく考えだ。医師にとっても「PBOS」を患者が利用することで収益性向上につながるため、システムを導入することへのハードルは高くないと考えられる。販売地域に関しては、米国で普及が進めば全世界へ展開していく計画となっている。

潜在的な市場規模は、当面は米国におけるウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄班浮腫等の患者が対象となる。2015年の調査※1によれば、加齢黄斑変性の患者数は全世界で1.38億人と推定され、うち米国は1,230万人程度、このうちウェット型は約10%の123万人程度となる。また、糖尿病は世界で約4.15億人の患者数に上り、その3割となる約1.24億人が糖尿病網膜症を引き起こすと言われている。日本のデータによれば糖尿病網膜症患者の約2割が糖尿病黄班浮腫と推定されており※2、世界で試算すると1.24億人×20%で約2,480万人となる。米国での患者比率が加齢黄斑変性と同じと仮定すれば、米国での糖尿病黄班浮腫の患者数は220万人程度と推定される。米国市場では、両疾患合わせた340万人強が当面の潜在顧客となる。仮に月額利用料を千円、普及率30%とすれば年間で120億円の市場が創出されることになる。潜在顧客数は加齢黄斑変性や糖尿病黄班浮腫だけでなくその予備軍等も含めれば将来的に全世界で1億人を超えると予想されるだけに、今後の展開が注目される。

※1 Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015.
※2 第114回日本眼科学会総会(糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症の20%に合併するという報告に基づく)。


なお、OCTの在宅・遠隔モニタリングデバイスとしては、2018年12月に米Notal Visionの「ForeseeHome®」が先に販売承認されているが、据え置き型であり対象も中等度のドライ型加齢黄斑変性症向けであることから、同社の「PBOS」とは直接の競合関係にはならないと見られる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



<MH>

情報提供元: FISCO
記事名:「 窪田製薬HD Research Memo(4):眼疾患領域における革新的な遠隔診断ソリューションとなる可能性