(1) EVの動向 a) 市場予測 国際エネルギー機関(IEA)によると、2017年のBEV(蓄電池式電気自動車)とPHV(プラグインハイブリッド車)を合わせた世界の新車販売台数が初めて100万台を突破し、114万8千台と前年比54.3%増加した。うちBEVは75万台、同63.2%増、PHVが39万8千台、同40.1%増であった。IEAは、2030年の販売台数を2017年の18倍(年率24%増)の2,150万台と予想している。各国の政策的な後押しが加速すれば、3,800万台に上振れするシナリオも示した。2030年の自動車販売台数を1億1千万~1億2千万台とすると、中央値シナリオのBEV・PHVのシェアは2割弱となる。累計販売台数では、2017年の370万台から2030年には1億3千万台へ増え、現在の自動車保有台数の約1割に相当することになる。
b) 中国市場の動向 世界最大の自動車市場となる中国では、2019年1月より新エネルギー車(BEV・PHV)の最低販売義務に関する新規制が施行された。新エネルギー車にかかるクレジットは、2019年に10%、2020年には12%のスコアを取得することが義務付けられる。10%のクレジットとは、新エネルギー車が販売台数全体の10%を占めるということではない。1回の充電による走行距離の長いEVは、パフォーマンスが劣る車よりも多くのクレジットを獲得できる。「伝統的な」自動車(ハイブリッド車(HV)を含む)の生産台数、または輸入台数が年3万台を超えるメーカーが対象となる。この規制は、炭素排出で世界的に導入されている「キャップ・アンド・トレード」方式と似ている。生産の最低要件を満たせない自動車メーカーは、達成した同業他社からクレジットを購入することが可能だ。規制をクリアできないメーカーには、罰金が科せられる。最悪のケースでは、組み立てラインの操業停止を余儀なくされる。中国指導部は、2025年までに新エネルギー車の年間販売台数を全体の約2割の700万台と想定している。
c) EVによるインパクト 内燃機関(ICE)の従来車1台当たりの部品点数は約10万点、うちエンジン部品が2万点を占める。それに対しEVの部品点数は10分の1の約1万点、モーターの部品点数に限れば50点未満で、関連部品を含めても100点ほどにしかならない。一方、走行用バッテリーが高コストの主因となる。ICE車からEVへの移行は、既存の大手自動車メーカーや一部の自動車部品会社、給油関連設備を不要にする。短期的な生産設備や要員の圧縮は、地域経済に打撃を与え雇用問題を引き起こす。また、EVは定期的なオイル交換などが不要であるため、整備の需要も減少する。このため、従来車にかかる企業は、保有資産の負の資産化を恐れ、EVへの移行を長引かせようとする心理が働く。