■農業総合研究所<3541>の業績動向

1. 2018年8月期業績
2018年8月期連結では前期比39.2%増の売上高2,310百万円となった。同社がKPIとしている数値は、店舗数、生産者数、集荷場の数であり、それらが増加することによって流通総額が拡大することを目標としている。流通総額はスーパー等において最終消費者が購入した最終販売価格の総計を言う。2018年8月期末時点で、店舗数は前期末比201店舗増の1,197店舗、生産者数は1,015名増の7,845名、集荷場は17ヶ所増の86拠点となった。その結果、流通総額は前期比23.8%増の8,778百万円と順調に増えてきている。

(1) 店舗数
店舗数の1,197店舗のうち、海外は12店舗ある。自社センターの稼働によって物流拡大に向けた体制が整い店舗数が増加した。同社の主要取引先にはイオンリテール、阪急オアシス、サミット(株)等があり、取引先における導入率は26.4%に達している。また、全国20,480店舗(2018年スーパーマーケット白書)のスーパーマーケットでの導入率は5.8%と拡大の余地が十分あり、スーパーマーケットからの引き合いで拡大を続けている。

(2) 登録生産者数
登録生産者数は、2018年8月期末時点で7,845名となっており、自社センター稼働とITプラットフォームの強化等により、登録生産者増を図っていく。登録生産者は全国に展開しており、全国総農家数2,155,082戸(2015年)のうち、登録率はまだ0.36%であるので、今後の増加も見込まれ、基本的には口コミで拡大を続けている。地域別に見てみると、関西エリアが3,903名、関東エリアが1,450名となっている。

(3) 集荷場
集荷場の数は2018年8月期末時点で86拠点あり、そのうちFC集荷場は62ヶ所ある。2018年8月期は日本郵便(株)四国支社との業務委託等が拠点数増加に寄与している。また、一部地域では拠点の集約も実施した。現在、31都道府県に設置されている。地域別に見てみると関西エリアが24拠点、関東エリアが16拠点で、その次が中国・四国エリアが15拠点となっており、日本郵便四国支社との業務委託の効果が出ている。

(4) KPIの推移
業績概要だが、売上高はスーパー等の需要が旺盛であり、それに伴って買取委託販売が売上高をけん引した。売上総利益は、買取委託販売の増加に伴う売上構成比の影響を受け売上総利益率は前期比で6.3ポイント減少したが、経常利益は子会社に対する補助金が43百万円で確定し損失の低減に貢献した。なぜ2018年8月期は買取委託販売が増加したかというと、この年度は大雪、長雨、夏の猛暑、台風直撃等の災害が多発し、農産物の生産量が少なかったため、同社は安定供給のために買取りを行ったことによる。今後発生し得る自然災害だけでなく、増加する店舗数に対し一定量の商品を確保し安定的な供給(同社ではこれを「プラットフォームの安定化」と呼んでいる)を図るため、今後も買取委託販売が増加していく見込みだ。また期初予想では営業損失が100百万円であったが、4百万円少ない96百万円となった。

(5) 経常利益増減分析
2018年8月期では、経常損失は47,286百万円となった。営業外収益の主な内訳としては、補助金収入43百万円、受取保険料4百万円、営業外費用の主な内訳としては、賃貸費用15百万円と為替差損1百万円であった。2018年8月期は、将来の体制固めに向けて、物流、IT、人材への投資計画を着実に実行できた。物流費は高騰したが、出荷手数料(出荷時に徴収する物流費見合い手数料)の見直しで吸収し、計画を上回る補助金は経常損失の低減に貢献した。

2. 財政状態
財政状態に関しては、取引ボリュームの拡大により、流動資産が前期末比76百万円増加し、1,372百万円となった。固定資産は、前期末比79百万円増加し、143百万円となった。負債に関しては、買掛金、未払金、賞与引当金、長期借入金が増加し、負債合計は前期末比172百万円増加し、847百万円となった。なお、純資産に関しては、親会社に帰属する当期純損失の計上で利益余剰金が29百万円減少、その結果、純資産額は前期末比17百万円減少し、668百万円となった。

3. 主なトピックス
(1) 2018年4月18日「日本郵便四国支社との業務委託契約締結を発表」
日本郵便とは2015年より千葉県で一部協業を始めていたが、今回は四国支社との業務委託契約に至った。内容としては、野菜、果物、その他の農産物及びこれらの加工品等の出荷を拡大し、農産物流通を促進するため、農産物等を出荷する生産者(出荷者)を新規に募集することを目的としており、具体的には出荷者を募集する業務、出荷者として登録する際に必要な業務を日本郵便四国支社に委託、日本郵便四国支社は、これら委託業務を遂行するために、日本郵便四国支社が所有または賃借する郵便局内に集荷場及び集荷場を補完する施設(集荷場等)を設置し、運営する。つまり郵便局に野菜と果物の集荷を委託する業務提携で、集荷場等で出荷者から持ち込まれた農産物等は同社が契約しているスーパー等へ日本郵便四国支社の物流を活用し出荷する。これにより生産者は近くの郵便局に農産物等を持って行くことで、全国のスーパー等で販売できることになる。全国の生産者に販路拡大を提供し、安定的な収益を獲得することに貢献できることになる。これによって2018年8月期末では既に日本郵便四国支社では10拠点のFC集荷場が増加した。

(2) 2018年9月11日「外食向け会員制青果物EC「彩直」のサービスを開始」
2019年8月期は流通総額が100億円を超えることを見越して、同社の将来に向けた収益力向上のため、再構築した物流網(大田市場内の自社センター)を活用することで、生産者と外食をつなぐことができると判断し、画期的なECサービスを開始した。外食向け会員制青果物EC「彩直(さいちょく)」で全国86ヶ所の集荷場と大田市場内の自社センターを活用し、約8,000名の登録生産者の青果物を外食向けに直接販売する新たなサービスだ。彩直より受注した登録生産者は、日々出荷している同社の集荷場に出荷する。集荷した青果物を大田市場内の自社センターを経由し、大田市場の外食向け卸業者に提供し店頭まで配送する(サービス開始時は、東京圏約15,000店舗を対象)。従来なかったサービスであり、裾野が広い外食産業への進出は、今後の収益への貢献が期待できる。

この「彩直」は「四方良し」を目指している。四方とは、農業総合研究所、生産者、卸業者、外食を指している。具体的には、上記の「四方良し」のビジネスモデルだが、4者の立場についてみていく。

a) 同社にとっては、既存の物流網を活用するため、新たな投資や追加のコストをほぼかけることなく、販路を拡大することが可能で、流通総額の拡大及び収益の増加を図ることができる。

b) 生産者にとっては、同社に登録することで、これまでの小売店のみならず外食への販路拡大、売上の増加が見込める。出荷先にとってもこれまでと同じ同社の集荷場であるため、追加のコストは不要。また、自身のファンを獲得し、ブランド化することが可能となる。

c) 卸業者は、外食に対して新たな商品の提案と販売が可能になり、売上の増加が見込める。既存の契約や商流、物流網等はそのまま活用できるため新たな投資や追加のコストは不要である。

d) 外食は、全国の生産者の青果物を最小1パックから購入することが可能になり、顔が見える青果物を使った付加価値の高い商品を手軽にメニューに載せることができる。収穫から最短24時間以内に店頭まで商品を届けることができ、鮮度の高い青果物は日持ちが良く、ロス率低下に寄与する。同社と卸業者の既存の物流網を最大限に活用するため、低価格で高付加価値の青果物が調達可能になり、既に取引のある卸業者経由で彩直を利用できるため、他の商品と一括受取りが可能で、新たな手間が発生しない。今まで外食に対するこのようなサービスがなく今後の成長が見込まれる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 福田 徹)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 農業総合研究所 Research Memo(5):KPIが堅調に推移し、前期比23.8%増の流通総額達成(1)