■TOKAIホールディングス<3167>の今後の見通し

2. 中期経営計画について
(1) 基本方針とM&Aの取組状況
2018年3月期よりスタートした新中期経営計画 (IP20)では、基本戦略としてトップラインの成長を最優先に「守りの経営」から「攻めの経営」に転じることを打ち出した。2021年3月までに顧客基盤の拡大につながるM&Aやアライアンスを積極的に推進し、総額1,000億円の戦略的投資を実行していく方針となっている。

M&Aの対象としては、中核事業であるガス、CATV、情報通信サービス等で顧客基盤を持つ企業のほか、既存の生活関連サービスの周辺領域についても対象としており、現在複数の案件について精査・交渉を進めている状況にある。また、AIやビッグデータ、クラウド、IoT、ロボティクスといった先進技術を活用した新規事業の創出にも取り組んでいる。同社ではこれらキーワードの頭文字と、これら技術を使いこなすデバイスとなるスマートフォンの頭文字を組み合わせて「ABCIR+S(アブサーズ)」と呼び、専任組織として「次世代経営戦略本部」を立ち上げ、グループ横断で「ABCIR+S」活用モデルの検討(新規事業の創出、顧客接点の高度化、情報活用戦略等)を進めている。これら先端技術で自社が保有していない技術、ノウハウを持つ企業もM&Aの対象となる。

M&Aの主な実績としては、2018年3月期にはCATV事業で東京ベイネットワーク(東京都江東区・中央区)、テレビ津山(岡山県津山市)を子会社化した。また、2018年10月には群馬県下仁田町が運営する都市ガス事業の譲受に関して関東経済産業局から認可を受け、2019年4月より事業引継ぎを行うことが決定した。都市ガス事業については従来、静岡県内のみで展開しており、初の県外進出となる。今回の実績をベースにさらに都市ガス事業でもM&Aにより広域展開していく方針となっている。

また、情報通信分野でも2018年9月にWebアンケートシステムの開発・提供を主力事業とする(株)サイズ※を連結子会社化したほか、IoT/AI/ブロックチェーン等の先端技術に強みを持つベンチャー企業の(株)トリプルアイズとも資本業務提携を締結した。サイズを子会社化した目的は、サイズの持つデータ収集ソリューションを活用して、グループのデジタルマーケティング戦略強化を図ること、また、トリプルアイズに関しては従来からシステム開発事業におけるパートナー企業として取引があったが、資本提携することで更なる関係強化を図り、システム開発事業の拡大及び新規事業・新サービスの開発等でシナジーを創出していくことを考えている。

※サイズの2017年11月期売上高は179百万円、営業利益36百万円。出資比率は100%。


そのほか、2018年8月には新電力会社のみんな電力(株)と資本業務提携を締結し、再生可能エネルギー分野への参入に向けた本格的な検討に着手した。2019年4月に電力販売等を行う100%子会社を設立する予定となっている。2019年以降、電力の固定価格買取制度(FIT)による買取期間が終了する太陽光発電設備の電力を買い取り、販売していくことになる。実際の販売はグループ会社や地域の工務店などの代理店も活用していく。まずは静岡県内の法人・個人、公共施設向けなどへ販売し、その後、同社グループが展開している地域に販売エリアを拡大していくものと予想される。ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する取り組みを強化している企業や、RE100加盟企業※、環境意識の高い自治体向け等に再生可能エネルギーの買取需要は拡大していくものと予想され、2020年3月期以降の展開が注目される。

※RE100:使用する電力の100%を再生エネルギーにより発電された電力にすることに取り組んでいる企業が加盟している国際的な企業連合。2018年9月時点で世界132社が加盟しており、日本ではリコー<7752>やイオン<8267>、アスクル<2678>など8社が加盟している。


(2) CATV事業の戦略
CATV事業は同社売上高の約15%、営業利益の約33%、顧客件数の約36%を占める主力事業の1つで、特に、顧客件数はグループの中で最大規模となっている(2番目は情報通信サービスの約35%)。1988年に静岡県内の有線テレビジョン施設会社に資本参加したのが始まりで、その後、M&Aにより拠点を拡大し、現在は静岡県、東京都、神奈川県、千葉県、長野県、岡山県の1都5県で事業を展開している。

業界内でのシェアはJ:COMグループが全体の5割以上を占め圧倒的だが、2番手以下のシェアは1ケタ台で混戦状況が続いている。放送サービスの売上高ランキングで見れば、同社グループ(TCN:TOKAIケーブルネットワーク(株))は全体の3番目となり、また、加入世帯数で見れば、6番手に位置する。現在、CATV事業会社は300社を超えているが、今後は大手資本によるグループ化が進むものと予想される。なかでも、同社は生活インフラサービス企業として、LPガスやインターネットサービスなど様々なサービスを提供していることを強みとして、積極的にアライアンスやM&Aを推進していく方針を打ち出している。

また、放送業界では2018年12月より「新4K8K衛星放送」が開始されるが、CATVで同放送を快適に視聴するために光化投資が必要となってくる。引き込み線が同軸ケーブルの場合は、視聴の際にSTB(セットトップボックス)が必要となるが、光化されればパススルー方式での視聴が可能となる。このため、同社は今後積極的に光化投資を実施していく計画で、2020年度までに100%光化をほぼ完了する計画となっている。従前より光化を進めていたこともあり、設備投資額としては年間60億円ペースが見込まれる。光化が進めば通信サービスについてもより高速で快適なサービスの提供が可能となるため、通信サービスの顧客件数も増加し、複数契約率の上昇も見込まれる。また、光化投資を行うだけの体力のない事業者のM&Aも同時並行で進めていくことにしている。同社は関東から岡山まで約6,000kmの光ファイバーを敷設しているため、敷設エリア内であれば投資効率も良いが、特にそこにはこだわらず全国に対象を広げてM&Aを推進していく方針だ。

(3) 経営数値目標
中期経営計画の経営数値目標としては、2021年3月期に連結売上高で3,393億円、営業利益で225億円、親会社株主に帰属する当期純利益で115億円、ROEで13.0%を掲げている。2018年3月期との比較で見れば、売上高で1.8倍、営業利益で2.0倍、親会社株主に帰属する当期純利益で1.7倍の水準となる。M&Aも活用しながらグループ顧客件数を432万件以上と1.5倍以上に拡大し、また、複数契約率も2018年3月期末時点の約14%から約20%に引き上げていくことで計画の達成を目指していく考えだ。

また、財務面を見るとM&Aやアライアンス等の加速により1,000億円規模の投資を実行していくことを前提に、有利子負債の増加を見込んでいる。このため、有利子負債/EBITDA(営業利益+のれん費用を含む償却費)倍率で見ると、2018年3月期の1.9倍から2021年3月期には2.6倍とやや拡大するものの、自己資本比率は30%台をキープし財務の健全性を保ちながら積極投資を実施していく方針となっている。なお、M&A費用を除く通常の設備投資については、2018年3月期が126億円で2019年3月期以降は年間140億円の水準を計画している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 TOKAI Research Memo(6):M&A戦略で2021年3月期に顧客件数432万件超、営業利益225億円へ