■AOI TYO Holdings<3975>の活動実績

1. 主力事業の状況と主な取り組み
(1)広告映像制作事業
テレビCMなど従来メディアの広告制作市場がほぼ横ばい(ないし若干減少傾向)にて推移するなかで、「広告映像制作事業」の売上高は前年同期比15.2%減の20,962百万円に落ち込んだ。プリントレス化の影響は想定よりも小さかった※1ものの、採算性重視の収益管理の徹底や働き方改革※2に伴う受注コントロール、一部案件の売上計上のずれ込み等による影響が大きかった。ただ、利益面では、採算性重視の営業管理体制(案件受注段階からの厳格な精査・選別、売上原価管理の徹底など)の構築により、実行利益率(CM制作部門のみ)が36.4%(前年同期は33.8%)に大きく改善したところは注目すべき点である。

※1 期初予想の段階では、2018年4月頃からプリントレス化の加速を想定していたが、実際の進行ペースはそれより遅行している。その結果、プリント売上高は前年同期比20.7%減の1,061百万円となったが、マイナス幅は想定よりも小さかったようだ。なお、プリントレス化による影響の残り分についてはプリントレス化の進行に伴って、段階的に売上高を下押しする要因として捉える必要がある。
※2 働き方改革の影響については、1)大手広告代理店(発注側)の働き方改革(労働時間削減)によるものと、2)同社自身の働き方改革による受注コントロール(案件の絞り込み)の2つの要因があげられる。なお、2)の影響により、同社が受注しなかった案件については、他の同業者(中堅・中小)へ流れている可能性があるが、働き方改革は業界全体の動きとなってきていることから、一時的な市場のゆがみはやがて解消(調整)されるものとみている。


(2)ソリューション事業
成長分野として注力する「ソリューション事業」の売上高は、前年同期比12.7%増の4,194百万円に増加した。そのうち、TYOオファリングマネジメント部門の売上高は前期比24.4%増の2,965百万円と堅調に推移した。ただ、意欲的な通期計画に対してはやや進捗に遅れがみられる。また、AOI Pro.の子会社Quark tokyoによる売上高は同14.9%減の1,095百万円と減少。需要が拡大傾向にある動画広告制作は増加したものの、大型案件の企画・コンサルがあった前年同期比ではマイナスとなった。

一方、今後の事業拡大に向けた活動については、バイタルセンシングデータを活用した体験設計ソリューション等のサービスを提供する新会社SOOTHの設立※1や、AIとビッグデータを活用した電力管理を実現するパネイル※2との業務提携(ブランディング・広報・広告戦略の全面的な支援等)のほか、後述する「5G時代に向けた動画広告への取り組み」に向けて一定の成果を残すことができたと評価できる。

※1 AOI Pro.体験設計部が手掛けてきた事業を引き継ぐ形により2018年2月1日に設立。これまで、1)VR/AR/MR をはじめとする最新テクノロジーを取り入れたコンテンツの企画・制作、2) 新たなデータや感情データを含むナレッジの蓄積などを進めてきたが、ここからさらに、3) 統合マーケティング事業(ブランド戦略立案から効果測定・分析までを統合したソリューション提供)への展開、4) データ活用による高付加価値事業への発展を目指すことが、新会社設立(別会社化)の狙いであり、事業拡大への手応えをつかんだ証左とも言える。本格的な業績貢献には長期的視点が必要であるが、応用範囲を含めてポテンシャルは大きい。
※2 パネイルは、独自に研究・開発した国内初のAIとビッグデータを活用した電力流通クラウドプラットフォーム「パネイルクラウド」を提供している。2018年4月には、東京電力エナジーパートナー(株)との共同出資により新会社を設立するなど、エネルギーに関するIT技術を駆使したサービス開発を進め、電力業界だけでなくエネルギー業界全体においても注目されている。なお、本件に伴い、パネイルに対して、TYOとフィールドマネジメントが共同で設立したベンチャーファンドAd Hack Venturesより5億円の出資も実施。IPOも視野に入れた高い事業性評価に基づく投資リターンの追求のほか、より強いパートナーシップ構築に狙いがあると考えられる。


(3)海外事業
「海外事業」の売上高は、前年同期比67.2%増の1,766百万円と大きく拡大した。広告市場が拡大している東南アジアでのオーガニックな成長に加えて、マレーシアの大手広告制作会社DTTグループの連結子会社化※が事業拡大に寄与した。

※2018年3月にDTTグループを傘下とする持株会社Reserve Tank Sdn. Bhd.の株式を取得した。なお、DTTグループは設立から10年を経てマレーシアにおいて五指に入る規模の映像プロダクションに成長。マレーシアのクアラルンプールに加え、インドネシアのジャカルタにもオフィスがあり、中国など近隣諸国の案件も数多く受注している。したがって、マレーシアでの日系及び現地企業向けの拡大はもちろん、インドネシアなどの近隣諸国への進出にも狙いがあるとみられる。


2. 5G時代に向けた動画広告への取り組み
5G※により、2020年以降、動画広告市場の急激な拡大が見込まれる中、同社は、クオリティの高い動画へのニーズに対応したビジネスモデルを確立し、新たな価値提供を目指すため、3つの方向性を打ち出すとともに、一定の成果を残すことができた。

※2020年代の情報社会で予測される、増大するトラフィックに応えるネットワークシステムの大容量化を、低コスト・低消費電力で実現する新技術のこと。超高速通信や低遅延化、IoT/IoEの普及等に伴う多数の端末との同時接続といった要件を考慮した研究開発が進められている。


(1)CMとエンタテインメントの融合
AOI Pro.が出資・制作し、是枝裕和氏が監督を務めた映画「万引き家族」が、「第71回カンヌ国際映画祭」コンペティション部門にて最高賞であるパルム・ドールを受賞。さらにドイツの「第36回ミュンヘン国際映画祭」シネマスターズ・コンペティション部門で、アリ・オスラム賞(最優秀賞)を獲得した(日本映画として初の受賞)。同社は、エンタテインメントコンテンツと広告映像が融合する時代※を見据え、エンタテインメントコンテンツへの取り組みを継続するとともに、さらなる事業の広がりを目指す方針である。

※広告映像はブランドの情報を伝達するツールから、ブランドと生活者との絆をつなぐためのツールへと機能をシフト。それに伴い、今後の映像制作者には、映像を用いて生活者の心を動かすための優れたシナリオの開発から、制作までできるコンテンツメーカーになることが求められている。


(2)動画×インフルエンサー・マーケティング
2018年7月には、AOI Pro.がアジア最大級のインフルエンサー・マーケティング会社タグピク(株)と資本業務提携を締結、8月に持分法適用関連会社化し、「動画」×「インフルエンサー・マーケティング」領域を強化した。近年、動画マーケティングにソーシャルメディアを活用する企業が増加する中、タグピクが有するインフルエンサーのキャスティング及び運用に関するノウハウや、ブランディング動画配信ネットワーク「PICFEE」を活用したインターネット動画配信領域における知見に同社の映像制作スキルを掛け合わせ、両社の事業領域の拡張及び事業成長を目指す。さらには、今後のクライアントのブランディング戦略においても、「動画」×「インフルエンサー・マーケティング」を活用した新たな価値を提供していく構えである。

(3)クリエイター需要への対応
急速に拡大するクリエイター内製化の企業ニーズへ対応するため、TYOオファリングマネジメント部門内に人材ソリューション型サービスを展開する「MovieBox」を新設した。効率性を重視した事業モデルの確立により、これまで対応してこなかった、ロングテールである動画広告市場におけるテール部分(1件当たりの規模の小さい裾野部分)の需要取り込みを狙う戦略である。既に、月額報酬のリテーナー契約にて、同社グループのリソース(人材や動画制作進行ツール等)やノウハウの提供を開始している。

3. 2018年12月期上期の進捗
以上から、2018年12月期上期の進捗を振り返ると、プリントレス化や働き方改革への対応など外部環境が業績の足を引っ張る要因となった一方、実行利益率の改善や出資・提携戦略の推進、5G時代に向けた取り組みでは一定の成果を残したと言える。特に、実行利益率の改善(筋肉質な組織づくり)や新たな成長領域への先行投資については、統合効果(規模の経済)の進捗として捉えることができる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)



<MH>

情報提供元: FISCO
記事名:「 AOITYOHold Research Memo(4):5G時代に向けた動画広告への取り組みを推進