■Jトラスト<8508>の事業概要

同社グループは、日本で構築したビジネスモデルを海外展開することで、アジアの総合ファイナンシャルグループへと成長を遂げてきた。同社では国内金融事業、韓国金融事業、東南アジア金融事業、投資事業、非金融事業の5事業セグメントを展開するが、メインとなる金融3事業が営業収益全体の8割近くを占める。今後も、国内金融事業を基盤に、アジア諸国の金融事業における買収・再生・健全化を通じて、顧客に喜ばれる地域密着型の金融グループとして成長を目指す方針である。

1. 国内金融事業
国内金融事業には、信用保証業務を中心に事業展開する(株)日本保証、クレジット・信販業務のJトラストカード(株)、サービサー業務のパルティール債権回収(株)などがある。国内の消費者金融市場が縮小するなか、2015年9月には実質的に無担保ローン事業から撤退し、不動産関連の保証業務及び債権買取回収業務に注力する体制を整備した。国内金融事業は、同社グループの強みが生かせる分野を中心に緩やかに成長することで、同社グループ全体の利益を下支えする役割を担っている。

不動産関連保証業務における同社グループの強みは、市場ニーズに合わせたオーダーメイド型商品の開発力と、独自の不動産ローン審査力である。同社グループが不動産の評価、審査と信用保証を担い、銀行が融資を行う。主に地域銀行数行と提携して、賃貸住宅ローン(アパートローン)保証業務を中心に、順調に保証残高を伸ばしており、2018年3月の保証残高は1,418億円、前年同月比65%増と増加を続けている。同社の保証する物件は、東名阪福の都市部、駅近物件に厳選しており、債務保証を行っている賃貸住宅の入居率は98%を超えている。保証料が高いその他の保証取扱(個人事業主への融資保証等)は、近年、競争が激化していることから、今後は保証料が低いものの貸倒リスクが小さい有担保保証を増やし、ボリュームでカバーすることで利益を確保する方針である。なお、最近の動きとしては、日本保証が2017年12月より、(株)西京銀行が取り扱うローン商品「海外不動産担保ローン」にかかる保証業務を開始した。さらに、2018年4月には(株)SBJ銀行との保証提携開始も発表し、日本保証の保証提携金融機関は8行となり、提携先の拡大と商品の多様化により、今後も保証残高が積み上がると見られる。

一方、債権買取回収業務については、同社グループの強みは多様な債権回収事業会社出身者のノウハウを結集した国内トップクラスの回収力にある。回収力の強さは、金融機関やカード会社などから債権を買い取る際の入札競争においても優位性となり、事業拡大という好循環につながる。今後もこの強みを生かした事業拡大を進めていく方針だ。パルティールが取り扱う請求可能債権残高は2018年3月末時点で7,723億円と、前年同月比で417億円増加している。これに、日本保証が(株)武富士より承継した簿外債権(請求可能債権)の約1,400億円を加えると、サービサー事業における債権残高は9,000億円を超える。こうした国内事業での債権回収力の強さは、韓国やインドネシアでも生かされている。

2. 韓国金融事業
韓国金融事業では、ソウルを中心に貯蓄銀行業とリース業、債権回収事業を展開し、市場環境に合わせた柔軟かつ迅速な対応により利益の最大化を図っている。中核のJT親愛貯蓄銀行(株)とJT貯蓄銀行(株)のほか、リース業のJTキャピタル(株)やサービサー事業(債権回収事業)のティーエー資産管理(株)を保有する。同社グループでは、日本でのオペレーションノウハウを生かし、これまでに確立した事業基盤を有機的に連携することで、韓国金融事業をグループにとっての第2の収益の柱と位置付けている。

韓国では、2015年3月期までのM&Aなどにより総合金融グループとしての事業基盤を確立した。同社グループが日本国内で培った審査力・回収力・マーケティング力などのオペレーションノウハウは、韓国金融事業における大きな成果につながっている。新規に貯蓄銀行のライセンスを取得し、2012年に営業を開始したJT親愛貯蓄銀行は、日本の信用金庫・信用組合などの規模感で地方銀行に相当する業務を行っているが、2年程で通期黒字化に成功した。

JT親愛貯蓄銀行とJT貯蓄銀行の店舗網は韓国全土の70%をカバーし、2行合算の資産規模は韓国79行中でトップ3に位置する。今後は、新規貸付金額の増加を通じて営業資産の更なる積み上げを図るとともに、優良なローンの増大により収益性を向上させる方針だ。実際、月間新規貸付が過去最高を記録するなど順調に伸びており、それに伴い営業資産も着実に増加している。さらに、大企業向けローン、有担保ローン、政府保証付きローンなどについても注力し、貸出ポートフォリオの安定化も図っていく。

また、JT親愛貯蓄銀行は、韓国消費者フォーラムが主催する「2018大韓民国ファーストブランド大賞」の貯蓄銀行部門において3年連続で大賞を受賞し、同銀行が消費者から高い評価を得ていることが示された。

JT親愛貯蓄銀行及びJT貯蓄銀行の2018年3月期第4四半期の平均貸出金利は12.82%、平均預金金利は2.40%であった。2015年6月以降、貸出金利は預金金利を上回るペースで低下傾向にあるが、依然として10%を超える預貸金利ザヤが確保されている。加えて、JT貯蓄銀行及びJTキャピタルの貸出残高も2018年3月には33,400億ウォン(約3,400億円)と順調に拡大し、安定した純金利収入を支持している。一方、延滞率は2014年6月の26.40%から2018年3月には5.18%に低下しており、営業利益は増加している。

なお、韓国金融当局により、高金利貸出の貸倒引当率が引き上げられ、また個人向けローンの貸出量が制限された。韓国では段階的に貸出上限金利の引き下げが行われている。2016年3月には上限金利が34.9%から27.9%に引き下げられており、2018年2月には24.0%に引き下げられた。将来的には20%近くまで低下する見通しだ。こうした規制環境変化のなか、同社グループでは、リスクの低い中・低金利帯の債権を大きく伸ばし、大企業向け融資や優良な融資案件を増やすなど、先手を打った戦略を展開している。すなわち、貸出金利の低下分を貸出残高の拡大と与信コストの減少によりカバーする方針だ。以上から、同社では、この規制の影響で2018年3月期以降は韓国金融事業の利益成長は従来の想定よりは抑えられるものの、安定した利益を確保するとみている。

3. 東南アジア金融事業
東南アジア金融事業では、東南アジアで最大の人口を持つインドネシアで銀行業及び債権回収事業を展開する。同社では新しいファイナンススキームによりASEAN諸国に活力をもたらす意気込みである。ライツ・オファリングで得た資金により、銀行業の現PT Bank JTrust Indonesia, Tbk.(以下、Jトラスト銀行インドネシア)を傘下に収めた。債権回収業のPT JTRUST INVESTMENTS Indonesia(以下、Jトラストインベストメンツインドネシア)とともに、同社グループでは東南アジア金融事業が第3の収益の柱に成長し、グループの業績をけん引することを期待している。既に、経営陣の刷新や、店舗や人員の最適化などを実施し、再生に向けてスピードを加速している。東南アジア金融事業の利益拡大が、同社グループ全体の今後の業績を大きく左右することになる。

長期間にわたって預金保険機構の管理下にあったインドネシアの商業銀行(現Jトラスト銀行インドネシア)については、同社グループでは最優先課題の1つとして、再生に取り組んでいる。韓国における貯蓄銀行再生の経験は、インドネシアの商業銀行の再生においても生かされている。これまでに、同行の増資を行うとともに、不良債権の回収に特化した新会社Jトラストインベストメンツインドネシアを設立して、同行から不良債権を切り離して譲渡することにより、財務体質の改善を図った。さらに、インドネシアの金融市場に精通したスペシャリストを経営陣に迎え、その人脈を生かした営業力強化を推進するなど、銀行再生を加速している。

実際、Jトラスト銀行インドネシアでは2016年9月末に約1,300名いた正社員を削減し、2018年3月期には800名体制を構築している。同時に、ジャカルタなどの重複店舗を削減し、新たに開店した店舗も含め45店舗にした。こうした徹底したリストラの効果もあり、営業資産の積み上げが進み、インドネシア国内での順位は買収時の120~130行中80位程度から、現在は109行中50位前後にまで上昇している。戦略的にポートフォリオを入れ替えた結果、貸出残高は2015年6月の82,922億ルピアから2018年3月には117,475億ルピア(約920億円)に増大する一方、不良債権比率は3.39%と低位で推移しており、営業実態は着実に改善傾向にある。また、預金全体に占める当座・普通預金の比率の上昇に伴い、資金調達コストは6.56%と過去最低水準に低下する一方、平均貸出金利は期末に向け上昇し、安定した純金利収入を確保している。

最近の動きとしては、2018年1月には四国銀行<8387>との業務提携を発表した。今後、同行及び同行の顧客に向けて、インドネシアの経済・投資環境、税制、法規制などに関する情報の提供やビジネスマッチング支援や、Jトラスト銀行の各種金融サービスの提供などを通して、積極的に日本企業のインドネシアへの進出をサポートする計画である。さらに、2018年4月には、マルチファイナンス会社であるOMFの株式60%の譲渡契約を発表した。OMFはオートローン業界の老舗として高い知名度があり、インドネシア全土の支店網や取引金融機関との豊富なネットワークを有していることから、Jトラストグループとの大きなシナジーが期待される。韓国に続きインドネシアでも、銀行、債権回収会社、ファイナンスカンパニーの三位一体の事業セグメントが構築され、幅広いエリアにおける多様なニーズに応えられる体制が整うことになる。加えて、2018年5月には、モンゴルのCapital Continent Investment NBFI(ファイナンス会社)を子会社化し、また、カンボジア5位の商業銀行のANZ Royal Bank(ANZR)の株式55%を来年5月までに取得予定であると発表した。こうした矢継ぎ早の買収発表から、東南アジア金融事業を今後のグループ成長ドライバーと位置付ける、同社の戦略が鮮明にうかがわれる。

4. 投資事業
投資事業では、シンガポールを拠点に、事業のシナジー性や商品力などを総合的に判断し、投資先を選定する。特に、金融事業あるいは金融事業とシナジー効果が見込める事業に投資している。ただ、2018年3月期は、GLへの投資関連損失を計上し、海外企業への投資の難しさを示す結果となった。

5. 非金融事業
同社グループでは、非金融事業として総合エンターテインメント事業、不動産事業、システム事業などを展開している。アミューズメント事業子会社のKeyHolder<4712>(2017年10月1日にアドアーズより商号変更)では、2018年3月に子会社のアドアーズを売却し、グループ経営資源の選択と集中を進めた。ただ、同社の本業である金融事業とのシナジーを考えると、非金融事業は今後もさらに見直しの余地が大きい事業分野と言えるだろう。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 Jトラスト Research Memo(3):金融事業がグループ全体の中核事業