■中長期成長戦略における事業セグメント別動向

5. 基盤素材事業
基盤素材事業は2026年3月期において営業利益300億円を目標としている。2017年3月期に大きく業績を伸ばし、10年ぶりの過去最高益更新の原動力となったのは前述のとおりだが、2017年3月期の躍進が海外市況の高騰や国内需要の堅調な動きなど、外部要因に助けられた面があったことは同社自身も十分認識している。2026年3月期にかけては需給バランスの変動や市況の変動は当然起こりうるが、それらの山谷に遭遇しても営業利益で200億円~300億円のレンジを確保するというのが、基盤素材事業において三井化学<4183>が目指す姿だ。

(1) 市場見通しの前提
石油化学コンビナートは典型的な設備産業であり、特に川上のナフサクラッカー(エチレンなどの基礎原料を生産する部分。エチレンセンターとも言う)の稼働率が収益を大きく左右する。したがって同社の設備稼働率を論じる上ではエチレンの世界需給バランスを考えることが基本となる。そのエチレンについて、現在の世界エチレン需要は年間1.5億トンと言われている。原油価格が50ドル/バレル前後まで回復してきたこともあり、今後、アメリカのシェールガスベースのエチレンが量産されてくる見通しだ。その増加分が最も出てくるのが2017年から2018年にかけてであり、1,500万トンの供給増が予想されている。

他方、需要については世界のGDP成長率が3%と見込まれている中、エチレン需要のGDP弾性値は1.1と言われている。すなわち、1.5億トンの3.3%に当たる約495万トン/年の需要増が見込まれているということだ。2017年と2018年の2年間では約1,000万トンの需要増加ということになり、シェールガス由来のエチレン供給量との比較では、500万トンの供給過剰ということになる。

なお、供給増加の動きは2019年には一段落する見通しだ。その間に需要が追い付くことで、2019年から先は再び需給がバランスすると見込まれている。

(2) 同社への影響の考え方
同社が2014中期経営計画の期間中に最も注力したのは基盤素材事業の構造改革であった。ナフサクラッカーを始めとする石油化学コンビナートに関して行った事業構造改革は以下のようなものだ。

a) 京葉エチレンからの離脱によるフル生産体制構築
同社は2015年3月をもって京葉エチレン(株)から離脱した。同社は京葉エチレンから年産768千トン/年(定修スキップ年)の25%を引き取っていたが、離脱により自社の千葉と大阪の両エチレンセンターでフル稼働ができるようになり、コスト競争力が大きく改善している。

b) “地産地消”政策によるエチレン国内消費率90%
同社は生産したエチレンの90%以上を国内で消費している。しかも国内消費分の90%(生産量に対しては約80%)は自社誘導品で消費している。国内の値決め方式はフォーミュラ方式で、原料ナフサの価格変動を製品価格に転嫁できる仕組みとなっているため、生産量の90%を国内で消費する同社は、業績安定性や赤字転落への抵抗力がそれだけ高いといえる。

c) 高付加価値ポリマーの構成比率90%
上記b)とも密接な関係にあるが、高い国内消費率を維持するためには、各種誘導品(製品としての化学品)をきちんと国内で売り切る力が必要だ。同社は需要が安定してより高価で販売できる高付加価値型ポリマーに注力している。エチレンの最大消費先であるポリエチレン(PE)樹脂において、同社は汎用ポリエチレンのプラントを停止する一方、エボリュー®ブランドで販売されている高機能タイプの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の能力を増加した。これは同社の包装用フィルムの基材としても利用されている。

前述のように、年間500万トンの余剰は総需要の約3%に相当する。したがって同社の設備稼働率も3%程度低下する可能性がある。しかしながら前述のような施策の結果、3%程度稼働率が下がってもきちんと利益を確保することは充分可能だと考えられる。同社はナフサクラッカー以外の領域においても、以下のように、フェノールのプラント停止、PTAのインドネシア事業売却、ウレタン事業の抜本的リストラなどの施策を行った。これらの結果として、将来想定される市況軟化や稼働率低下の局面においても、しっかりと利益を計上できる体制が整ったと言える。

(3) 2026年3月期に向けた今後の施策
2026年3月期に向けた基盤素材事業における取り組みは、シンガポールのエボリュー®(高機能ポリエチレン樹脂)プラント(30万トン/年、2016年8月稼働)のフル生産化がある。これは需要開拓を進めながらの作業でもあるが、2021年3月期のフル稼働を目標としている。

ポリプロピレンでは国内プラントのビルド&スクラップを検討している。製品の高品質化、コストダウン、安定供給体制構築などが目的だ。20万トン/年規模のプラントを2022年3月期以降のどこかで建設することを検討開始した。

新製品開発では加工性と強度を兼ね備えた“エボリューE”の開発を加速させる計画だ。エボリューよりもさらに高機能・高品質な新製品のリリースで、市況変動や稼働率変動に対する耐久力を高める方針だ。ポリプロピレンについても、PPコンパウンド向けの新銘柄の開発を進めている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 三井化学 Research Memo(12):市況や稼働率の変動を吸収し安定的に営業利益200~300億円の確保を目指す