■会社概要

(1)会社沿革

リプロセル<4978>は世界的な幹細胞研究の権威である京都大学・中辻憲夫(なかつじのりお)教授(当時)と東京大学・中内啓光(なかうちひろみつ)教授が創業に携わったバイオベンチャーで、2003年に設立された。当初はES細胞※の培養技術に関して国内トップの知見を持つ中辻教授の研究室で使用していた培養液や凍結保存液などの研究試薬を他の大学、研究機関に販売することから事業をスタートし、事業領域を拡大するために2006年から臨床検査受託事業を開始した。

※ES細胞(Embryonic stem cells:胚性幹細胞)…動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる細胞で、生体外にて理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させることができる。

2007年に京都大学の山中伸弥(やまなかしんや)教授が、世界初のヒトiPS細胞※の作製に成功したことでヒトiPS細胞が一躍脚光を浴びるなか、同社も2009年に世界で初めてヒトiPS細胞由来心筋細胞の製造販売を開始した。2013年にはJASDAQ市場に株式を上場し、事業資金を獲得。グローバルでの事業展開を進めるため、欧米のバイオベンチャー4社を相次いで子会社化し、研究試薬から創薬支援事業までグローバルでの事業基盤を構築した。なお、開発力及び販売力でのシナジー効果を生かすため、2016年7月に英国の2つの子会社(Reinnervate及びBiopta(英国))を合併しReproCELL Europe(以下、英子会社)としたほか、9月には米国の3つの子会社(Stemgent及びBioserve及びBiopta(米国))を合併しReproCELL U.S.A.(以下、米子会社)とし、再編統合を図った。

※iPS細胞(Induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)…体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、多様な細胞に分化できる分化多能性と、無限増殖能を持たせた細胞。

また、2014年に新生銀行<8303>の子会社である新生企業投資(株)と共同でベンチャーキャピタルファンド「Cell Innovation Partners, L.P.」を立ち上げ、同ファンドに出資する子会社RCパートナーズ(株)を設立している。同ファンドの規模は9億円程度で、国内外のヒトiPS細胞・再生医療関連のバイオベンチャーへの事業資金を提供すると同時に、同社のヒトiPS細胞・再生医療分野の事業強化を図っていくことを目的としている。

(2)事業の内容

同社の事業は、ヒトiPS細胞の作製技術を基盤としたiPS細胞事業と臨床検査事業の2つのセグメントで開示されているが、売上高の9割以上はiPS細胞事業で占められている。各事業セグメントの内容は以下のとおり。

a) iPS細胞事業
iPS細胞事業は研究試薬、創薬支援、再生医療(計画)と3つの事業ポートフォリオに分かれており、2017年3月期第2四半期累計の売上構成比では研究試薬事業で56%、創薬支援事業で44%となっている。

研究試薬事業では、主にヒトES/iPS細胞の研究を行う際に使用する培養液や凍結保存液、コーティング剤など様々な試薬を大学等の公的研究機関や製薬企業の研究所等に製造販売している。とりわけ、ヒトiPS細胞用の培養液では国内シェアで50%以上あるとみられる。競合としてはカナダのステムセル・テクノロジーズが挙げられる。また、米子会社でもヒトiPS細胞用研究試薬を製造販売しているほか、英子会社では3次元細胞培養のための培養用プレート「Alvetex」の製造販売を行っている。

創薬支援事業では、製薬企業や化学企業等に創薬のための実験材料となるヒトiPS細胞やiPS細胞由来の心筋、肝臓、神経細胞等の製造販売を行っているほか、疾患モデル細胞製品の作製受託や、ヒトiPS細胞培養の受託サービスなども行っている。また、米子会社ではヒトDNAや組織、血清サンプルなどの生体試料を研究機関や製薬企業等に販売しているほか、英子会社では製薬企業を主な顧客として前臨床試験受託サービスを行っている。

再生医療事業についてはまだ計画段階であるが、ヒトiPS細胞由来の体性幹細胞※を活用した細胞医薬品や、ヒトiPS細胞を活用した細胞医薬品の開発販売を目指している。現在は研究試薬事業が売上の過半を占めているが、今後は創薬支援事業が拡大していく見通しで、将来的には再生医療市場で世界No.1企業になることを目指している。

※体性幹細胞…生体の様々な組織にある幹細胞。造血幹細胞・神経幹細胞・皮膚幹細胞などがあり、限定された種類の細胞にしか分化しないものや、広範囲の細胞に分化するものなど様々ある。

b)臨床検査事業
臨床検査事業では、臓器移植や造血幹細胞移植で必要とされる臨床検査に特化した検査受託サービスを行っている。具体的には、医療機関から血液や血清などの検体を同社の衛生検査所に搬送し、「HLAタイピング検査※1」や「抗HLA抗体検査※2」「フロークロスマッチ検査※3」などを行っている。国内で100施設以上の病院から検査を受注するなど、同検査領域では高い実績を持っている。また、今後は遺伝子検査サービスなどにも事業領域を広げ、より精度の高い検査サービスを提供していく計画となっている。

※1 HLAタイピング検査…白血球の型を調べる検査。臓器移植の際に、HLA型が異なると、免疫拒絶が起こりやすくなる。
※2抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)…臓器移植や造血幹細胞移植後で免疫拒絶が起きているかどうか確認するため、体内の抗HLA抗体の産生量を移植前と後で計測し、モニタリングする検査。2012年4月より造血幹細胞移植において保険適用が開始されている。
※3フロークロスマッチ検査…免疫拒絶を抗HLA抗体に限定せずより広く検出するための方法。ただし、陽性反応が出た場合でも、その原因を特定できないため、抗HLA抗体検査と組み合わせることで、より検査確度を上げるために用いる検査方法となる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 リプロセル Research Memo(2):ヒトiPS細胞の作製技術を基盤としたiPS細胞事業と臨床検査事業