■会社概要

(1)三井化学<4183>の沿革

三井化学株式会社は直接的には1997年に三井石油化学工業と三井東圧化学が対等合併し、三井石油化学工業が存続会社となって発足した。大元をたどると1912年に三井鉱山(株)が本格的に化学事業を開始したところに遡る。三井鉱山は合成アンモニアや化学肥料などの事業を拡大するため、1933年に福岡県大牟田市に東洋高圧工業(株)を設立し、そこから現在の三井化学に至る一方の柱の事業がスタートした。その後三井グループは、1941年に三井鉱山の染料事業などを引き継ぐ三井化学工業(株)を設立した。

一方、石炭から石油へのエネルギー革命や、石油から合成樹脂(いわゆるプラスチックのこと)や合成繊維、合成ゴムなどの石油化学製品の輸入量の増大、高分子化学分野における技術革新などを背景に、日本においても石油化学製品の国産化のニーズが高まった。三井グループでは、当時の東洋高圧工業や三井化学工業などグループ8社が出資して、1955年に三井石油化学工業を設立した。三井石油化学工業は1958年に岩国大竹工場を完成させ、日本初のエチレンプラントを稼働させた。岩国大竹工場では1962年に日本初のポリプロピレン(PP)を製造するなど、石油化学分野でのリーディング企業として順調に業容を拡大した。

石炭化学からスタートした東洋高圧工業も、1965年に大阪石油化学(株)を設立して石油化学事業へと進出するとともに、1968年には三井化学工業を吸収合併して三井東圧化学となり、三井グループ内において2つの化学会社が石油化学コンビナートを擁する体制となった。

その後1997年に三井東圧化学と三井石油化学工業は「世界の市場で存在感のある総合化学会社」を目指して対等合併し、三井化学株式会社へと商号変更して現在に至っている。

化学品と一口に言っても石油化学製品からファインケミカル製品まで極めて多岐にわたる。生産技術も複雑で設備投資が多額になることも多い。またコストダウンのためにはスケールメリットの追求も不可欠だ。こうしたことを背景に、化学業界では合弁企業で事業を展開するケースが非常に多い。同社も国内外で製品に応じて子会社・合弁会社を多数擁している。2016年3月期末時点において、同社は子会社104社、関連会社29社でグループを形成している(子会社のうち95社を連結し、一部の子会社と関連会社合わせて36社に持分法を適用)。

(2)事業の概要

a)主な事業と製品
沿革の項で述べたように、同社は東洋高圧工業に始まる石炭化学の流れと、三井石油化学工業に始まる石油化学の流れとを併せ持つ総合化学企業だ。“化学産業”というのは化学というプロセスに基づいた分類であり、化学プロセスから生み出される製品は川上の合成樹脂から川下の医薬品や化粧品、衣料品原料など極めて広範囲にわたっている。同社自身も川上から川下まで幅広い製品ラインナップを有している。

同社は時代やユーザーの変化などに対応して事業セグメントを何度か変更してきたが、2017年3月期からは新たに、モビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージング、基盤素材の4つの事業本部に分類している。理由は、2014年度中期経営計画(2015年3月期−2017年3月期の3ヶ年中期経営計画)における基本戦略の更なる推進を図るため、とされている。従来のセグメント分けが製品に視点を置いたセグメント分けだったのに対し、新セグメントは市場に視点を置いたものとなっている。市場が同じかもしくは近縁のものを統括して事業を展開したほうがシナジーの追求につながるとの判断が働いたと思われる。

変更の具体的内容は、従来の機能樹脂セグメントと石化セグメントの中の海外PP(ポリプロピレン)コンパウンド事業を統合し、モビリティセグメントとした。また、従来のフード&パッケージングセグメントと、ウレタンセグメントのうちのコーティング・機能材事業を統合し、フード&パッケージングセグメントとした。さらに、従来の基礎化学品セグメントと、海外ポリプロピレン・コンパウンド事業を除く石化セグメント、及びウレタンセグメントのうちポリウレタン材料事業を統合して新たに基盤素材セグメントとした。ヘルスケアはそのまま引き継がれた。

注意を要するのは、同社のような総合化学企業の事業や製品は、向け先や用途などで明確に区切ることが難しいものが多いということだ。例えば機能性コンパウンド事業部の製品は、向け先としては自動車向けの割合が比較的高いというだけで、電気・電子部品などのエレクトロニクス分野や機械、土木・建築などの幅広い産業において利用されている。また、フード&パッケージング事業本部に属する三井化学東セロ(株)の製品(合成樹脂のフィルムやシート等)には、半導体チップの製造過程で使用される保護テープ(世界シェアトップ)や太陽電池封止シートなども含まれている。

b)生産設備
事業主体が多数の子会社・関連会社に分かれているのとは対照的に、生産設備は石油化学コンビナート内に集約されているケースが多い。その理由は、原料から最終製品まで、エネルギーのロスを抑えることや、生産プロセスの途中経過が気体であるためにパイプラインで結ぶ必要があることなどがある。それゆえ同社の石油化学コンビナート内に他社の設備が組み込まれているケースや、逆に、同社の製造設備や製造子会社が他社のコンビナート内に位置するケースも多い。

日本の石油化学プラントではナフサを分解し、エチレンを取り出すことから始まるため、このプロセスを“ナフサクラッカー”や“エチレンプラント”、“エチレンセンター”などと呼んでいる。このエチレンプラントを中核にその前工程である石油精製設備(原油を精製して自動車用ガソリンや石化原料のナフサなどを製造)と川下の誘導品工場(ナフサ分解で得られたエチレンなどを利用して合成樹脂や様々な化学品を製造)がパイプラインで結ばれた集合体を石油化学コンビナートと呼んでいる。同社は総合化学企業として数多くの生産工場や生産設備を有しているが、石油化学コンビナートについては、岩国大竹工場、市原工場、及び大阪工場の3ヶ所となっている。このうちナフサクラッカー(エチレンプラント)を有しているのは、市原工場と大阪工場の2拠点となっている。

この中には子会社の(株)プライムポリマー(同社が65%出資)の合成樹脂工場も組み込まれている。プライムポリマーはパイプで直接、原料のエチレン、プロピレンの供給を受け、ポリオレフィン系合成樹脂(ポリエチレンとポリプロピレンの総称)を生産している。

石油化学コンビナート以外にも、同社本体及びグループ会社の国内製造拠点は数多い。中でも重要なのは同社の大牟田工場だ。大牟田工場ではメガネレンズ材料やウレタン、機能樹脂、イソシアネート・チェーンの各種誘導品、包装用フィルムなど、川下に属する化学品が数多く製造されている。

海外ではシンガポールにMitsui Phenols Singapore(フェノール、ビスフェノールA等)、Mitsui Elastomers Singapore(合成ゴム等)の2社を展開するほか、中国やタイでも樹脂原料や合成ゴム、合繊原料などを生産している。また子会社のプライムポリマーもシンガポールでLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)を生産している。

石油化学・基礎化学以外の分野についても海外に製造拠点を有しており、中国・天津とタイ・ラヨンで紙おむつや衛生用品用不織布を製造している。また、歯科材料を手掛けるHeraeus Kulzerを買収した結果、ドイツにその本社工場も有し、各種歯科材料の生産を行っている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 三井化学 Research Memo(2):「世界の市場で存在感のある総合化学会社」を目指し発足