今年のドル・円相場を追っていると、狭いレンジ内での取引が目立ちます。調べてみたら、現時点での変動幅と変動率は過去20年間では最低水準。夏が終われば年末にかけて大きなイベントが目白押しですが、それでも動意づくようには見えません。

「あまりにも動意が薄いのでチャートが壊れているのかと思った」——市場関係者の間ではよく聞くジョークですが、そんな日がこのところ特に多いと感じます。2018年8月第4週までのドル・円相場は、高値が113円38銭、安値は104円64銭で変動幅は8円74銭、変動率は7.7%にとどまっています。変動幅、変動率とも、過去20年間で最低の水準を下回っています。

変動幅をみると、この20年間の平均は18円44銭。特に大きかったのは、リーマン・ショックが発生した2008年の24円85銭。逆に小さかったのは、東日本大震災で円が急激に上昇し過去最高値を付けた2011年で、数値が小さく動きづらかったせいもありますが、それでも9円98銭となりました。足元の変動幅は平均の半分にも満たないのですから、いかに動意が薄いのかわかります。

その理由は、1)連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクル、2)アメリカの貿易赤字是正、3)欧州・オセアニア通貨の低迷、の3点でドルが選好されやすいことです。このうち、2)はドル買いの要因であると同時に、世界経済の減速懸念から円買いの要因でもあります。つまり、ドルと円の強い通貨どうしが買われるため、ドル・円の値動きが乏しくなると考えられます。
しかし、ドル買いの条件がそろっているにもかかわらずドル・円自体がそれほど上昇しないのは、やはり「トランプ・リスク」のせいかもしれません。最近でも、パウエルFRB議長の講演を前にトランプ大統領は利上げをけん制。それが予期せぬ材料となり、ドル・円は大きく売られ一時110円を割り込みました。その後値を戻す局面で、ある短期筋は「本腰を入れて買えない」と話していました。

秋以降にトランプ政権がかかわるイベントをみると、9月は国連総会のほか米朝首脳会談の可能性が浮上、その後は11月5日のイランへの制裁実施、同6日のアメリカ中間選挙と、影響が当事国にとどまらない重要イベントが続きます。中間選挙については、現時点で予想は難しいものの、民主党の立て直しに不安があるなか、与党不利の常識を打ち破り共和党が圧勝するシナリオも考えられます。

そうなった場合の進化したトランプ政権のアメリカを見据えると、従来の常識では考えられなかった政策が進められるリスクから、ドルはますます買いづらくなるのではないでしょうか。例えば、中央銀行の独立性は国際社会の常識ですが、急激に変わる展開もあり得ます。ドルはファンダメンタルズで買われても、政治面で売られるとの特徴が鮮明になるかもしれません。
(吉池 威)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 秋のドル・円も動意薄か【フィスコ・コラム】