年末恒例の「来年の見通し」で、2018年はドル安・円高の予想が多かったように思えますが、その見立ては正しいかもしれません。1月の為替関連のニュースから、2年目に入ったトランプ政権がドル安政策に向け馬脚を現したといえそうです。

2018年が始まって1カ月。東京株式市場は大発会から大幅高となり、「バブル後初の〇〇円台」といった記録的な高値圏を推移していますが、外為市場はドル・円のさえない値動きが印象的です。実際には株価も下げているのですが、1月の下げ幅は日経平均株価の-2.7%に対し、ドル・円は-4.7%と上回りました。これまでのような株価と為替の相関性は次第に薄れつつあるように思えます。

1月に入り、トランプ政権は北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに関するカナダ、メキシコとの協議で保護主義的な貿易スタンスを強め、それを嫌気したドル売りの流れに傾きました。欧州中銀(ECB)の引き締め期待を受けたユーロ買いも、相対的なドル売りの要因となっていました。そこへムニューシン財務長官のドル安容認発言で、ドル・円は節目の110円をあっさり下抜けます。

その翌日、今度はトランプ氏が経済専門テレビのインタビューに応じ、「ドルは強くなる」と述べたことが報じられました。市場ではドル安容認発言を打ち消したと受け止められ、ドルはいったん買い戻されます。ただ、その買戻しは長続きせず、ドルは一時108円30銭付近まで売り込まれます。トランプ氏は決してドル高を支持したわけではない、と市場は判断したようです。

その判断は適切でした。インタビューを聞いてみると、自分の目指す通りに政策を進めていけば「(おのずと)ドルは強くなる」と話しています。つまり、ドル安により輸出などで稼ぎ、アメリカ経済が拡大していけば「結果的に」「長期的に」ドル高になるというのがトランプ発言の趣旨でしょう。一貫してドル高支持だったムニューシン氏のドル安容認は、政権の本気度を示すものとして今後もドル売りを支援しそうです。

一方、1月30-31日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、想定通り政策金利が据え置かれました。終了後の声明は「国内経済は目標に沿って成長しており、注意しながらウォッチする。ただ、政策金利をどうするかは今後の状況次第」と要約できます。一国の中央銀行として極めて当たり前のことしか言っていません。年3回の利上げシナリオは、イエレン議長退任とともに後退したとみてもおかしくないでしょう。

1月のドル安・円高は、日銀の黒田東彦総裁が従来通り物価2%目標に自信を示したことも要因の1つに挙げられます。ECBの引き締め観測の延長線上で「異次元緩和」の縮小と解釈されてしまったためです。ドル安の圧力のほか主要国の金利正常化の流れが強まるなか、日銀が今後も緩和政策をさらに継続していくのなら、目標達成に「自信はない」と“本音”を明かさざるを得なくなるのではないでしょうか。

ところで、トランプ氏がテレビのインタビューで「自分はダボス会議で大歓迎を受けた」「まるでアカデミー賞の受賞式のようだった」と自慢げに語るのを見て、氏の関心は世界経済などよりも自身の「ショービズ」にあるのだと改めて思い知らされました。ドル高は、このどこまでもおめでたい大統領による政策運営の成果ということになるようです。





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情報提供元: FISCO
記事名:「 おめでたいドル高【フィスコ・コラム】