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車載用、定置型、電力系統用大型の製品規模の違う三つの蓄電池の領域でそれぞれ市場の急拡大が見込まれている。これまで、HV/EV市場では、価格と安全性のニッケル水素(NiMH)を選ぶかコンパクト性のリチウムイオン電池(LiB)を選ぶかの構図があった。これからは、それぞれの市場で、コンパクト性、価格、安全性、寿命だけでなく、バリューチェーン全体の複雑な要素が絡む戦いとなってくる。それぞれの短所をいかに克服するか、また、希少金属資源から3Rに至るまでバリューチェン全体を構築するパートナーの巻き込みやEMS、BMS等のシステム活用も、ビジネス展開の重要な決めてになってくる。全体の蓄電池市場は急速に拡大するので、将来技術である全個体リチウム電池や燃料電池も含めた市場動向からも目が離せない。
■コンパクト化
・EV用LiBの生産では、テスラを主要顧客とするパナソニック<6752>が先行している。航続可能距離が500kmを超えるEVを発売するテスラは、パナソニックと共同でLiBの「ギガファクトリー」をUSネバダ州で稼働を始め、EV年間生産50万台を目指す。航続可能距離という最重要指標のステップアップのために、LiBのエネルギー密度の向上と冷却技術等を駆使したコンパクト化が課題である。
・大容量NiMHでは、FDK<6955>のメガトワイセルと川崎重工<7012>のギガセルが発表され、定置用や電力系統用の30kWh以上大型市場を狙っている。エネルギー密度ではLiBに軍配があがるのでコンパクト化は課題であるが、価格と安全性で優位に立っている。
・コンパクト化を決定づけるエネルギー密度の観点で注目されている技術が、全個体型電池である。LiBのエネルギー密度200-300Wh/kgに対し、東工大とトヨタ<7203>は、昨年LiBの3倍以上の出力特性をもつ全固体型セラミックス電池を開発したと発表した。今年2月、富士通<6702>傘下の富士通研究所とFDKは、従来のLiB正極材料に対し、約1.5倍のエネルギー密度を有する正極材料を開発したと発表した。全個体リチウム電池は、将来のEVバッテリーの本命になるのではないかと言われている。
■価格
・蓄電池の容量/KWhあたりの購入(導入)価格は、年々低下している。2010年頃、20万円/KWhであったLibは、3-5万円/KWhまで落ちてきた。トヨタプリウスで1.3KWh、日産リーフで23KWh、テスラで85KWh、家庭用定置型5-10KWh、電力系統用大型蓄電池500K-5MWhの蓄電池容量が必要である。大量に普及させるための価格の目標値は、0.5-1万円/KWhと言われている。
・EVで先行した日産<7201>、三菱自<7211>は、LiBを採用している。価格を重要視し歴代HV向けバッテリーをNiMHで開発したトヨタは、4世代目プリウスのメインバッテリーとしてニッケル水素電池とリチウムイオン電池を機種により使い分けた。
■サプライチェーン
・正極材、負極材、電解質、セパレータ等のNiMH、LiB材料は、日本企業が世界の多くのシェアを持っている。材料コストで最大の比率を占める正極材では、三菱ケミカル<4188>、パナソニックエナジー、戸田工業<4100>、日亜化学工業等が重要な供給元である。Li資源も含めた量産に向けた系列化が進んでいる。
・住友化学<4005>は、8月に田中化学研究所<4080>を子会社化し正極材事業を本格化した。
・伊藤忠<8001>は、2010年米国のリチウム資源会社に投資し、2012年には、戸田工業に資本参加してLiBの正極材を足がかりに電池事業の拡大を目指している。
■寿命・安全性
・日産リーフの中古価格が下落したのに対し、テスラの航続距離の長期信頼性は高い。材料そのものの信頼性ももちろん改善してきているが、安全かつ長期信頼性を保つためのBMS(バッテリーマネージメントシステム)の重要性が認識され、各社が注力している。
・GSユアサ<6674>は、ホンダ<7267>とEV向けブルーエナジーを設立し、EV向け事業を展開しているが、大型蓄電事業でも、17.9MWのメガソーラーに付随する6.75MWhの蓄電池システムを大林組<1802>から受注し2017年4月に釧路で稼働した。このプロジェクトで、充電状態、セル電圧、モジュール電圧、セル温度などを正確に計測して制御する独自のBMS(バッテリー・マネジメント・システム)も開発した。
大きなビジネスチャンスとなっているEV用、定置型、電力系統用大型の蓄電池は、それぞれ要求仕様と求められる信頼性が異なる。バリューチェーンを管理した上で長期信頼性と安全性をいかに維持するかが、新材料開発、コスト削減と並んでこの有望なビジネス成功の重要な要素である。
執筆者名:三竿郁夫 IA工房代表
ブログ名:「IA工房」
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