2015年に欧米6カ国などがイランと締結した核合意をアメリカが破棄する可能性から、イラン通貨リアルが闇レートで急落しています。経済制裁が再開されればイラン経済への影響以上に政治情勢が不安定化し、それが中東全体の流動化につながるとの懸念が背景にあります。


イランは2005年以降、アフマディネジャド政権による核関連施設での高濃縮ウラン製造などに疑いが強まったものの、2013年のロウハニ大統領就任後、状況に変化が生じます。イラン側は核開発の大幅な制限と国内軍事施設の条件付き査察など受け入れ、2015年7月に欧米・国際原子力機関(IAEA)との間で最終合意。昨年イランの履行が確認され、核開発疑惑に関わる経済制裁も解除されました。低迷していたイラン経済は原油の輸出解禁や外資の受け入れを柱に、回復軌道に乗る見込みでした。


しかし、アメリカの国内ではイランに対する不信感が根強く、共和党内にはオバマ政権の融和的な対応に批判が止まず、トランプ氏も昨年の大統領選の選挙期間中から合意の破棄を主張していました。そもそも両国には1979年11月のテヘランのアメリカ大使館人質事件に端を発した対立の経緯があり、そこへオバマ前大統領の政策をひっくり返すという個人的な目的も絡み、トランプ大統領は10月13日の演説で2015年の核合意を「容認しない」と言い出しました。


それに対し、ロウハニ大統領は「イラン国民への侮辱」と反発を強めています。いったん解除した経済制裁を再び発動するかどうかは、今後のイラン経済を大きく左右します。特に、原油の輸出解禁が凍結されれば、国内総生産(GDP)を押し上げる柱を失いかねません。また、制裁で撤退した外国企業を呼び戻す動きが加速していましたが、それも閉ざされてしまいます。アメリカの議会は制裁再開には消極的とみられるものの、予断を許さない状況です。


こうしたアメリカの対応を受け、比較的安定していたイランリアルは値崩れしています。1ドル=32300リアル台から32400リアルのレンジ内で推移していたのが、合意破棄の可能性が高まると、闇レートで40000リアルを下抜けました。国内では、今年5月に再選された穏健派のロウハニ大統領に対し反欧米路線の保守強硬派が早くも批判の声を上げ始めています。穏健派の後ろ盾で保守派からも信頼の厚かったラフサンジャニ元大統領が今年1月に死去しており、ロウハニ氏が政局を乗り切れるかとの不安もあります。


一方、トルコがビザ発給問題でアメリカと対立するなか、イランに接近しています。トルコはイランの宿敵であるイスラエルとの関係を昨年修復。中東では数少ないイスラエルとのパイプ役となりうる国ですが、トルコがイランに接近したことで、イスラエルと再び敵対する可能性もあります。核保有国のイスラエルに対抗しようとイランが核の再開発に走り出したら、アメリカやロシアを巻き込み、中東はかつてないほどの緊張が高まることでしょう。


今年のノーベル平和賞の受賞者は、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」に決まりました。同賞には平和活動の実績だけでなく受賞後の影響を期待したメッセージという側面もありますが、中東地域にその意図が伝わるでしょうか。

「吉池 威」



<MT>

情報提供元: FISCO
記事名:「 【フィスコ・コラム】イラン核合意破棄で中東はメルトダウン