南アフリカ国民議会でズマ大統領に対する不信任決議案が否決され、通貨ランドは失望の売りが強まりました。しかし、同大統領への「遠心力」は鮮明となり、政治的な節目が近づいていることを予感させます。


南ア国民議会(400議席)は8月8日、ズマ大統領への不信任案を反対(親ズマ)198、賛成(反ズマ)177、棄権・無投票25の反対多数で否決しました。今回で8回目となった不信任決議は初めて無記名投票で行われました。現在249の議席を占める与党・アフリカ民族会議(ANC)は26人の造反を含め51人がズマ氏を信任しなかったことになります。昨年11月の反対214、賛成126、棄権・無投票58評決と比べても造反者は確実に増え、ANC内からもズマ氏への不満が高まっていることが示されました。


ANCは、イギリスからの独立を目指したインド国民会議をモデルとしており、1912年に結党した左派系の政党です。南アでは反アパルトヘイトを掲げたネルソン・マンデラを中心に黒人参加による民主政治の実現に取り組みました。ANCは1994年5月の全人種参加の選挙で黒人票の9割を集めて圧勝。1999年と2004年の総選挙でも勝利し、マンデラの後を引き継いだムベキが国内経済の成長路線を進めました。ANC自体は現在も国内での支持は圧倒的で、南アの政権与党として君臨しています。


その後、ムベキ政権下で副大統領を務めていたズマが格差やエイズなどの対策への不満から反ムベキを掲げ、党内の権力抗争は激化します。ズマはANC議長選挙でムベキに勝
利し、2009年の総選挙後に大統領に就任しました。しかしズマは就任前から、アパルトヘイト後に南アに移住したインドの富豪のグプタ家との深いつながりがたびたび指摘され、ANCの支持基盤を弱めていると批判されています。ANCは2014年の総選挙でも勝利したものの、ズマ政権への不満を抑えることができない状況になってきました。


今年5月にはグプタ家のメールが流出し、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに28憶円相当の邸宅をズマのために購入したことなどが発覚。南ア国営企業と有利な契約を次々と締結したグプタ家の政権との親密ぶりが裏付けられました。ANCはその後、ズマに対する不信任動議を提出したものの、72人のうち54人が反対を表明。ズマは逃げ切ったかにみえました。しかし、今回の不信任決議ではあわや罷免という事態に発展し、疑惑まみれのズマを与党でさえ守り切れない構図が鮮明になりました。


ANCは依然として強力なブランドですが、世論に押される形でANC幹部もズマに見切りをつける可能性もあります。今年12月に予定される議長選でズマが再選された場合、2019年の次期総選挙でのANCの勢力縮小は必至でしょう。それを回避するためにも、ズマ降ろしは今後、本格化すると予想します。かつてのズマの「求心力」は、今や「遠心力」となって加速する見通しです。

(吉池 威)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 【フィスコ・コラム】南アフリカのズマ大統領への「遠心力」