主要国から新興国まで各国中銀の政策決定が相次ぐなか、世界的に金利正常化の流れが鮮明になってきました。2017年の前半の金融市場はトランプ米大統領の破天荒ぶりに翻ろうされた感はありますが、年後半はファンダメンタルズや金融政策を背景に金利差重視の取引が増えると予想されます。


金利正常化の先陣を切ったのはアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)です。6月13-14日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で予想通り利上げに踏み切り、同時にバランスシート縮小に着手する考えを表明。また、2017-19年は年3回の利上げペースを堅持するとの強気な方針を発表しました。足元のアメリカの経済指標は強弱まちまちで、「こんなにタカ派で大丈夫か」(市場筋)といった声が聞かれるのも事実です。ただ、今後発表される経済指標が堅調となり、強気の方針を後押しできればドル買い基調は維持されるでしょう。


FRBの方向性を援護したのが英中銀です。6月14-15日の金融政策委員会(MPC)で金融政策は据え置かれたものの、引き締めを主張した委員が1人から3人に増えたことがサプライズとなり、利上げへの思惑が再燃しています。その後、カーニー総裁が向こう数カ月以内の利上げ論議の必要性に言及し、ポンドは対ドルで値を戻しつつあります。また、カナダ中央銀行のポロズ総裁は同28日、「利下げは役割を果たした」と事実上の緩和終結を宣言しました。同様にオーストラリアでも追加利下げ観測が後退し、金利正常化の方向性を印象付けています。


欧州中銀(ECB)もユーロ圏経済の回復を背景に緩和解除への思惑が広がっています。ドラギ総裁の「デフレ圧力はリフレに変わった」とのやや踏み込んだ発言は、目先の引き締めを期待したユーロ買いを誘発。スイスは経済の先行きに見極めが必要であるものの、消費者物価指数(CPI)の上昇トレンドが目立っており、今後は通貨安政策を改める可能性が出てきました。さらに、過去最低水準の政策金利が長期化するとみられていたニュージーランドでも、直近の中銀の見解はそれほどハト派寄りではなかったことが注目されます。


金利正常化への流れは、新興国でもみられます。メキシコ中銀は、インフレの上昇率が中銀目標を上回っていることから4回連続の利上げを決定。政治情勢の混乱で格下げされた南アフリカでも、資金流出を回避するため年内の利上げが見込まれます。また、トルコ中銀は15日の会合で主要金利を据え置きましたが、引き締め方針を堅持しています。強権を振るうエルドアン大統領の下、今後も相当な利下げ圧力が見込まれるものの、上昇基調のインフレへの対応から中銀は利上げ方針を継続すると期待されています。


一方、スウェーデンやロシア、日本などではまだまだ緩和路線が続きそうです。日銀は6月15-16日に行われた金融政策決定会合で、異次元緩和を堅持する方針を示しました。黒田東彦総裁は会合後の記者会見で「現時点で出口での収益資産を公表するのはかえって混乱を招く」と「出口」の議論を封印しており、6月最終週は金利差が意識されて円安基調となりました。安倍晋三首相が自ら批判の材料をまき散らさなければ円安の流れは続き、日経平均株価は年後半に入っても当面は20000円台を維持できるでしょう。

「吉池 威」



<MT>

情報提供元: FISCO
記事名:「 【フィスコ・コラム】金融引き締め競争に突入か